関西学院大学 2019 大問〔Ⅱ〕

解法の指針

本問は点電荷による電場・電位磁場中の荷電粒子の運動を組み合わせた電磁気の総合問題です。xy 平面上の電荷配置から電場・電位を求め、その後、一様な磁場中に入ってきた粒子の円運動を解析します。

問題の構成

全体を貫くポイント

[A](1):xy 平面上の電場の強さ

直感的理解
点電荷 $+Q$ と $-Q$ が対称に配置されている場合、ある観測点でそれぞれから受ける電場の大きさは同じですが、向きが違います。向きを考慮してベクトル合成します。

設定:$(+a, 0)$ に $+Q$、$(-a, 0)$ に $-Q$。観測点 A を $(0, a)$ として電場を求める。

距離:どちらの電荷からも A までの距離は $\sqrt{a^2 + a^2} = \sqrt{2}\,a$。電場の大きさはそれぞれ、

$$E_\pm = \frac{Q}{4\pi\varepsilon_0 (\sqrt{2}a)^2} = \frac{Q}{8\pi\varepsilon_0 a^2}$$

($k = \dfrac{1}{4\pi\varepsilon_0}$)

ベクトル分解:$+Q$ から A への電場 $\vec E_+$ は $(+a, 0) \to (0, a)$ の向き、単位ベクトル $\left(-\dfrac{1}{\sqrt{2}}, \dfrac{1}{\sqrt{2}}\right)$。$-Q$ から A への電場 $\vec E_-$ は A から $-Q$ へ向く、単位ベクトル $\left(-\dfrac{1}{\sqrt{2}}, -\dfrac{1}{\sqrt{2}}\right)$。

合成:y 成分は相殺、x 成分は同じ(負向き)で、

$$E_x = -\frac{2 E_\pm}{\sqrt{2}} = -\sqrt{2} E_\pm = -\sqrt{2} \cdot \frac{Q}{8\pi\varepsilon_0 a^2} = -\frac{Q}{4\sqrt{2}\pi\varepsilon_0 a^2}$$

大きさは、

$$|E_A| = \frac{Q}{4\sqrt{2}\,\pi\varepsilon_0 a^2}$$
答え:
$$|E_A| = \frac{Q}{4\sqrt{2}\,\pi\varepsilon_0 a^2} \;(\text{x 軸負の向き})$$
別解:電気双極子の近似公式

遠方($r \gg a$)での電気双極子モーメント $p = 2aQ$ が作る電場は、軸に垂直な位置で $E = \dfrac{p}{4\pi\varepsilon_0 r^3}$。近距離では正確な計算が必要。

Point

対称配置の電場は対称軸上で成分が相殺・残存する。相殺する成分を最初に認識すれば、計算量が大幅に減る。

[A](2):電位の計算

直感的理解
電位はスカラーなので、各点電荷からの寄与を符号つきで足すだけ。+Q からの電位は正、-Q からの電位は負なので、対称配置によっては電位がゼロになります。

公式:点電荷 $q$ から距離 $r$ の地点の電位は、

$$V = \frac{q}{4\pi\varepsilon_0 r}$$

(基準:無限遠で $V = 0$)

A $(0, a)$ での電位:+Q からの寄与 $V_+ = \dfrac{Q}{4\pi\varepsilon_0 \sqrt{2}a}$、-Q からの寄与 $V_- = -\dfrac{Q}{4\pi\varepsilon_0 \sqrt{2}a}$。

$$V_A = V_+ + V_- = 0$$

+Q と -Q の中点(原点)でも電位は 0。一般に、電荷配置が原点に関して反対称なら、y 軸上全体でも電位は 0 になります。

等電位面:電位が 0 の面は中点を通る平面(yz 平面)と、各電荷から等距離の点の集合(球面)。

答え:
$$V_A = 0 \;(\text{対称配置により相殺})$$
補足:電場ではなぜ相殺しないか?

電場はベクトルで、向きが異なれば相殺しない。電位はスカラーで、+Q からの正の寄与と -Q からの負の寄与がそのまま打ち消し合う。同じ対称軸上でも電場と電位の振る舞いが違うのはこのため。

Point

電位はスカラーで向きを考える必要がない。複数電荷の電位は符号つきで単純に足すだけ。電場より計算が楽なので、まず電位を計算してから $\vec E = -\nabla V$ で電場を導く方が早いこともある。

[B](1):磁場中の電荷の円運動半径

直感的理解
一様な磁場 $B$ に速度 $v$(磁場に垂直)で入射した電荷 $q$(質量 $m$)には、ローレンツ力 $qvB$ が速度に垂直にはたらきます。この力が円運動の向心力になるので、$qvB = \dfrac{mv^2}{r}$ から半径 $r$ が決まります。

力のつり合い(向心方向):ローレンツ力が向心力になる。

$$q v B = \frac{m v^2}{r}$$

半径:両辺を整理すると、

$$r = \frac{m v}{q B}$$

向きの判定:ローレンツ力の向きは右手の法則で求める。+電荷が $\vec v$ で動くとき、$\vec F = q \vec v \times \vec B$。$v$ が +x 方向、$B$ が +z 方向(紙面手前)なら、$\vec F$ は -y 方向。したがって電荷は時計回りに円運動します。

数値例:$m = 9.11 \times 10^{-31}$ kg、$q = 1.6 \times 10^{-19}$ C、$v = 1.0 \times 10^7$ m/s、$B = 0.01$ T の電子なら、

$$r = \frac{(9.11 \times 10^{-31})(1.0 \times 10^7)}{(1.6 \times 10^{-19})(0.01)} \fallingdotseq 5.7 \times 10^{-3} \text{ m} \fallingdotseq 5.7 \text{ mm}$$
答え:
$$r = \frac{m v}{q B}$$
補足:サイクロトロン運動

この円運動はサイクロトロン運動と呼ばれ、粒子加速器の基本原理。半径は速度に比例、磁場と電荷に反比例。電子は軽いので小さな半径で回るが、陽子は質量が約1840倍なのでずっと大きな半径で回る。

Point

ローレンツ力は常に速度に垂直なので、仕事をせず運動エネルギーを変えない。結果、速さは一定で等速円運動になる。磁場は「速度の向きだけ変える」機械。

[B](2):円運動の周期

直感的理解
周期 $T$ は「1周する時間」。円周 $2\pi r$ を速さ $v$ で割れば得られます。ここで $r = \dfrac{mv}{qB}$ を代入すると、速度 $v$ が消えて、周期は速度によらない定数になります。

周期の定義:

$$T = \frac{\text{円周}}{\text{速さ}} = \frac{2\pi r}{v}$$

$r = \dfrac{mv}{qB}$ を代入:

$$T = \frac{2\pi \cdot \dfrac{mv}{qB}}{v} = \frac{2\pi m}{qB}$$

速度 $v$ が消える点に注目。周期は粒子の速さに依存しない。サイクロトロン加速器はこの性質を利用して、電場パルスを一定周期で与えることで荷電粒子を加速できる。

角振動数:

$$\omega = \frac{2\pi}{T} = \frac{qB}{m}$$

これをサイクロトロン振動数と呼ぶ。

数値例:電子($m = 9.11 \times 10^{-31}$ kg、$q = 1.6 \times 10^{-19}$ C)、$B = 0.01$ T なら、

$$T = \frac{2\pi \times 9.11 \times 10^{-31}}{1.6 \times 10^{-19} \times 0.01} \fallingdotseq 3.57 \times 10^{-9} \text{ s} = 3.57 \text{ ns}$$ $$f = \frac{1}{T} \fallingdotseq 280 \text{ MHz}$$
答え:
$$T = \frac{2\pi m}{q B}$$
別解:角振動数から逆算

運動方程式を $xy$ 平面の成分で書くと、

$$m \ddot x = q B \dot y, \quad m \ddot y = -q B \dot x$$

これを解くと $\dot x = v\cos(\omega t)$、$\dot y = -v\sin(\omega t)$ で $\omega = qB/m$。よって周期 $T = 2\pi/\omega = 2\pi m/(qB)$。

Point

サイクロトロン周期の「速度に依存しない」性質は、粒子加速器の動作原理そのもの。ただし相対論的に速くなる($v \to c$)と質量が増え、周期が長くなるため、シンクロトロンでは周波数を時間変化させる(シンクロトロン加速)。

🔑 まとめ:電磁気の重要概念

概念公式ベクトル/スカラー
点電荷の電場$E = \dfrac{kQ}{r^2}$ベクトル(向きあり)
点電荷の電位$V = \dfrac{kQ}{r}$スカラー
ローレンツ力$\vec F = q \vec v \times \vec B$ベクトル(速度に垂直)
円運動半径$r = \dfrac{mv}{qB}$速度に比例
周期$T = \dfrac{2\pi m}{qB}$速度に無依存

電磁気の繋がり:電場と磁場は一見別物だが、ローレンツ変換(相対論)では互いに変換されあう単一の電磁場の成分。運動する荷電粒子は静止座標系では磁場を、運動座標系では電場を感じる。

🔬 応用と発展:電磁気の深掘り

電気双極子のモーメント

本問の +Q と -Q を組み合わせた配置は、電気双極子の基本形です。双極子モーメント $\vec p$ は、

$$\vec p = q \vec d$$

ここで $\vec d$ は -Q から +Q への変位ベクトル。本問では $d = 2a$、$p = 2aQ$。

遠方での電場(双極子近似):

$$E_\text{軸} = \frac{2p}{4\pi\varepsilon_0 r^3}, \quad E_\text{垂直} = \frac{p}{4\pi\varepsilon_0 r^3}$$

$r^{-3}$ の依存性。単独点電荷の $r^{-2}$ より速く減衰。

サイクロトロン加速器の原理

本問 [B] の磁場中円運動は、サイクロトロン加速器の心臓部です。

最大エネルギー:$E_\text{max} = \dfrac{(qBR)^2}{2m}$($R$ はディーの半径)。

補足:相対論的効果とシンクロトロン

粒子速度が光速に近づくと、質量が相対論的に増え $m \to \gamma m$ となる。すると周期 $T = 2\pi m/(qB)$ も $T \to \gamma T$ と増え、電場との同期が崩れる。

これを解決するため、シンクロトロンでは磁場 $B$ を粒子のエネルギーに応じて変化させ、軌道半径を一定に保つ。LHC(大型ハドロン衝突型加速器)はこの方式で粒子を光速の 99.9999% まで加速する。

磁場中の運動:ビオ・サバールとの関係

電流が磁場を作る(アンペールの法則)、磁場が電荷に力を及ぼす(ローレンツ力)、この相互作用が電磁気の骨格です。

法則説明数式
クーロンの法則電荷間の静電気力$F = \dfrac{kq_1 q_2}{r^2}$
ローレンツ力磁場中の荷電粒子への力$\vec F = q \vec v \times \vec B$
アンペールの法則電流の作る磁場$\oint \vec B \cdot d\vec l = \mu_0 I$
ファラデーの法則磁束変化で電場が誘起$\varepsilon = -\dfrac{d\Phi}{dt}$

実用例:質量分析

磁場中の円運動の半径 $r = mv/(qB)$ は、質量 $m$ に比例します。質量分析計はこの原理で原子・分子の質量を測定します。

質量分析は炭素同位体比、タンパク質質量、環境汚染物質の検出など、幅広い分野で使われています。

Point

磁場中の円運動は、加速器・質量分析・オーロラなど、現代科学技術の様々な場面で応用されている。基本原理は「ローレンツ力が向心力になる」という一点に集約される。