本問は2つのシリンダー(A:断面積 $2S$、B:断面積 $S$)が T字型ピストンで連結された系で、上下の温度調節器でそれぞれの気体を独立に加熱・冷却できる構造の熱力学問題です。ピストンには「おもり」が後から載せられ、さらに温度操作を行って気体の状態変化を追います。
ピストンのつり合い:T字型ピストンには次の力がはたらく(下向きを正)。
※ A 室がピストンの上面全体(断面積 $2S$)に圧力をかけるが、下面のうちピストンの縁部分(面積 $2S - S = S$)には A 室の圧力そのものが押し上げず、代わりに大気圧等は問題設定に依るが、本問では大気圧ではなく B 室の気体が直接下面の中心(面積 $S$)を押すと見なす。
正しい力学モデル:T字型ピストンの全体(A 面から B 面まで)に作用する力を整理する。本問では A 室下面($2S$)から押し下げる $p_A \cdot 2S$、B 室上面($S$)から押し上げる $p_B \cdot S$、およびピストンの縁(A 側から下向きに抜けている環状部 $S$)に B 室内壁の圧力がはたらく場合があるが、T 字型の設計により A 室の気体圧が縁の環状部にも下向きに押す。
典型的な設定では、ピストンのつり合い式は $p_A \cdot 2S = p_B \cdot S$(または同様の面積比)となり、
$$p_B = 2 p_A$$ピストンの質量を $M_p$ とすると、つり合いは、
$$p_A \cdot 2S + M_p g = p_B \cdot S$$ $$p_B = 2 p_A + \frac{M_p g}{S}$$高校物理では通常ピストンの質量を無視するので $p_B = 2 p_A$ とする。
T字型・段付きピストンの問題では、各面に作用する圧力 × 面積でピストンへの力を求め、つり合い式を作る。断面積が異なると圧力も異なる。
状態方程式:A 室について、
$$p_A \cdot 2V_0 = n_A R T_0 \quad \Longrightarrow \quad n_A = \frac{2 p_A V_0}{R T_0}$$B 室について($p_B = 2 p_A$):
$$2 p_A \cdot V_0 = n_B R T_0 \quad \Longrightarrow \quad n_B = \frac{2 p_A V_0}{R T_0}$$比較:$n_A$ と $n_B$ はともに $\dfrac{2 p_A V_0}{R T_0}$。したがって、
$$n_A = n_B$$面積は違っても、気体のモル数は等しい。$p V$ の積が同じためです。問題設定によっては体積比が異なる場合があり、$n_B = 2 n_A$ などになることもあります。
典型パターンでは $n_B = 2 n_A$(B の体積が A の半分、圧力が2倍でも、体積も半分なので)
$$n_B = 2 n_A \;(\text{問題の体積比による})$$気体の状態方程式は、4つの量 $p, V, n, T$ のうち3つが決まれば残り1つが決まる関係式。どの3つが与えられているかでアプローチを変える。
2室の気体問題では両室を独立に状態方程式で記述し、共通する変数(温度・ピストン位置・モル数など)を通して結びつける。
ピストン移動の条件:ピストンが移動するとき、A 室の気体は膨張し、B 室の気体は圧縮される(または逆)。体積変化の和は、ピストンの段差による体積関係で結ばれる。
B 室の体積が $V_0 \to V_B'$ に変わるとき、ピストンが上に動き A 室の体積は $2V_0 \to 2V_0 + 2\Delta V$(ここで $\Delta V$ は断面積 $2S$ での変化)。B 室での変化 $\Delta V = V_0 - V_B'$。
B 室の状態方程式(圧力一定 $p_B$):$\dfrac{V_0}{T_0} = \dfrac{V_B'}{T_B'}$ すなわち、
$$V_B' = V_0 \cdot \frac{T_B'}{T_0} = V_0 \cdot \frac{(3/2)T_0}{T_0} = \frac{3}{2} V_0$$$V_B'$ が大きくなるので、ピストンは下向きに動き、A 室は逆に縮小。ピストンの体積差はおもりの重みや幾何によって決まるが、ここでは A 室が $\dfrac{1}{3}$ 分膨張するとして、
$$V_A' = 2V_0 + \frac{\Delta V_A}{2S} \cdot 2S$$A 室の状態方程式(圧力一定 $p_A$):$\dfrac{2V_0}{T_0} = \dfrac{V_A'}{T_A'}$ より、
$$T_A' = T_0 \cdot \frac{V_A'}{2V_0}$$問題設定から $V_A' = \dfrac{8}{3}V_0$(具体的な幾何関係から)になるとすると、
$$T_A' = T_0 \cdot \frac{8V_0/3}{2V_0} = \frac{4}{3} T_0$$B 室の体積が $\dfrac{3}{2}$ 倍になる(+$\dfrac{V_0}{2}$)とき、ピストンが下に $\dfrac{V_0}{2S}$ 動く。同時に A 室の断面積は $2S$ なので、体積は $2S \cdot \dfrac{V_0}{2S} = V_0$ だけ増える。したがって $V_A' = 2V_0 + V_0 = 3V_0$。状態方程式より、
$$T_A' = T_0 \cdot \frac{3V_0}{2V_0} = \frac{3}{2} T_0$$設定により答えが変わるので、問題の体積関係を厳密に読むことが重要。
段付きピストンの気体問題では、ピストンの移動距離と両室の体積変化の幾何学的関係を先に書き下す。断面積が違うので、同じピストン移動量でも両室の体積変化は異なる。
熱力学第一法則:B 室に熱量 $Q$ を加え、B 気体が外(ピストン)に仕事 $W_B$ をし、内部エネルギーが $\Delta U$ だけ増えた。
$$Q = \Delta U + W_B$$内部エネルギー変化:定積モル比熱を $C_V$ とすると、
$$\Delta U = n_B C_V \Delta T$$(理想気体では、内部エネルギーは体積変化によらず、温度変化のみに依存)
$C_V$ について解く:
$$Q - W_B = n_B C_V \Delta T \quad \Longrightarrow \quad C_V = \frac{Q - W_B}{n_B \Delta T}$$この式は全ての理想気体で成立。単原子理想気体では $C_V = \dfrac{3}{2}R$、二原子では $\dfrac{5}{2}R$、多原子では $\dfrac{7}{2}R$ などと定まっていますが、本問では計測値から逆算します。
$W_B$ の求め方:B 室は圧力一定で温度が $T_0 \to \dfrac{3}{2}T_0$ に変わるので、
$$W_B = p_B (V_B' - V_0) = p_B \cdot \frac{V_0}{2} = \frac{1}{2} p_B V_0$$また $p_B V_0 = n_B R T_0$ より $W_B = \dfrac{1}{2} n_B R T_0$。温度変化 $\Delta T = \dfrac{T_0}{2}$。
$$C_V = \frac{Q - \dfrac{1}{2} n_B R T_0}{n_B \cdot \dfrac{T_0}{2}} = \frac{2Q}{n_B T_0} - R$$具体計算:$C_V = \dfrac{2Q}{n_B T_0} - R$
理想気体では定圧モル比熱 $C_p$ と定積モル比熱 $C_V$ の間に、
$$C_p - C_V = R$$が成立。これをマイヤーの関係と呼ぶ。定圧過程では気体が膨張して仕事をする分、余分に熱を吸う必要があるため。
熱力学第一法則 $Q = \Delta U + W$ は熱・仕事・内部エネルギーの関係式。気体が外に仕事をすれば内部エネルギーは減る、外から仕事をされれば増える。この式に $\Delta U = n C_V \Delta T$ を組み合わせるのが定石。
| 概念 | 公式 | 使用場面 |
|---|---|---|
| 状態方程式 | $pV = nRT$ | 各室独立に適用 |
| ピストンつり合い | 圧力×面積のバランス | 段付きは面積差で片寄る |
| 等圧変化 | $V/T = $ 一定 | 外力と内力が釣り合う場合 |
| 等圧での仕事 | $W = p\Delta V$ | ピストン移動時の仕事 |
| 内部エネルギー | $\Delta U = n C_V \Delta T$ | 温度変化のみに依存 |
| 第一法則 | $Q = \Delta U + W$ | 熱量・仕事・内部エネルギーの収支 |
物理的意味:2室系では、一方の温度を上げると圧力バランスが崩れてピストンが動き、もう一方の体積と温度も連動して変わる。熱力学は「自発的に変化する方向」を教える学問でもある。
気体を使ったサイクル(熱機関)では、高温源から熱を吸い、その一部を仕事に変換し、残りを低温源に捨てる、という流れが基本です。
$$\eta = \frac{W}{Q_\text{吸収}} = 1 - \frac{Q_\text{排出}}{Q_\text{吸収}}$$カルノーの定理より、熱効率の上限は、
$$\eta_\text{Carnot} = 1 - \frac{T_\text{low}}{T_\text{high}}$$これは熱力学第二法則の表現。どんなに優れた熱機関も、低温源の温度が絶対零度でない限り、100% の効率は達成できません。
本問の T 字型ピストンのバリエーションは、入試や実用機械で多彩に現れます。
気体分子の自由度 $f$ に応じて、内部エネルギー $U = \dfrac{f}{2} n R T$。モル比熱は、
| 気体の種類 | 自由度 f | $C_V$ | $C_p$ | $\gamma$ |
|---|---|---|---|---|
| 単原子(He, Ar) | 3(並進のみ) | $\dfrac{3}{2}R$ | $\dfrac{5}{2}R$ | $\dfrac{5}{3}$ |
| 二原子(N₂, O₂) | 5(並進+回転) | $\dfrac{5}{2}R$ | $\dfrac{7}{2}R$ | $\dfrac{7}{5}$ |
| 多原子(H₂O, CO₂) | 6 以上 | $\ge 3R$ | $\ge 4R$ | $\le \dfrac{4}{3}$ |
高温になると振動モードが励起され、さらに自由度が増えます。$\gamma$ は温度で変化する物理量。
$C_p - C_V = R$ の物理的意味:定圧で温度を 1 K 上げるには、定積の場合に比べて「気体が外にする仕事分」だけ余分に熱量が必要。この余分な熱量が 1 モルあたり $R$ なのです。
定圧過程では $\Delta T = 1$ K のとき $\Delta V = nR/p$、仕事 $W = p \Delta V = nR$。$Q_p = nC_V \Delta T + nR \Delta T = n(C_V + R) \Delta T$ より $C_p = C_V + R$。
理想気体の圧力は、分子運動の運動エネルギーから導けます(気体分子運動論)。
$$p V = \frac{2}{3} N \cdot \frac{1}{2} m \overline{v^2} = N k_B T$$ここで $k_B = R/N_A \fallingdotseq 1.38 \times 10^{-23}$ J/K はボルツマン定数、$N_A$ はアボガドロ数。
温度は「分子の運動エネルギーの平均」の尺度。$T = 300$ K で $\overline{v^2} \fallingdotseq 500$ m/s(空気分子)。
熱力学はマクロ(気体の圧力・体積)とミクロ(分子運動)を繋ぐ学問。エネルギー保存とエントロピー増大の2本柱が支える。