大問1:ばねでつながれた2小球の相対運動

解法の指針

本問は、2つの質点がばねでつながれた系が自然長になるまで圧縮された状態から解放された後の運動を解析する問題です。換算質量重心座標を用いて2体問題を1体問題へ分離するのが定石です。

使用する主要法則・公式

全体を貫くポイント
2体問題は「重心運動」+「相対運動(換算質量 $\mu$ の単振動)」に分解するのが最短ルート。振幅比は質量の逆比 $A_A:A_B = m_B:m_A$。

問1:弾性力のポテンシャルエネルギー

直感的理解
ばねを $x_0$ だけ縮めたとき、そこに蓄えられたエネルギーはばねを縮めるのに必要な仕事に等しい。フックの法則から力は縮みに比例して大きくなるので、仕事は三角形面積になる。

ばねを自然長から $x_0$ だけ縮めるとき、ばねを戻そうとする弾性力 $F = kx$ に逆らって外力 $kx$ で $x_0$ まで変位させる仕事が、そのまま弾性ポテンシャルエネルギー $U_{\text{弾}}$ として蓄えられます。

仕事の定義より、力 $F(x) = kx$ を $x = 0$ から $x = x_0$ まで積分すると:

$$U_{\text{弾}} = \int_0^{x_0} kx \, dx = \left[\frac{1}{2}kx^2\right]_0^{x_0} = \frac{1}{2}kx_0^2$$

これは「フックの力 vs. 変位」グラフの三角形の面積に対応し、高校物理で暗記必須の公式です。

答え: $\displaystyle U_{\text{弾}} = \frac{1}{2}kx_0^2$
補足:ポテンシャルエネルギーの基準点の取り方
ここでは「自然長」を基準にしています。ばねが自然長のときに $U = 0$ とすれば、縮みでも伸びでも $U = \frac{1}{2}kx^2 \geq 0$ となります。自然長状態が安定平衡点。
Point ばねの弾性エネルギー:$U = \frac{1}{2}kx^2$。縮み・伸び共通。$x$ は「自然長からのずれ」であり、絶対位置ではない。

問2:各小球の運動方程式

直感的理解
ばねが自然長より長くなると「縮もうとする」力(A→B方向にはAを引っ張り、BをAの方向へ引っ張る)が働く。A・Bそれぞれにニュートンの第二法則を適用。

小球A・Bの位置を $x_A, x_B$ とし、ばねの自然長を $L_0$ とします。ばねの伸びは $\ell = x_B - x_A - L_0$。

ばねが伸びているとき($\ell > 0$)、Aには右向きに $k\ell$、Bには左向きに $k\ell$ の力が働きます。運動方程式は:

$$m_A \ddot{x}_A = +k(x_B - x_A - L_0) = +k\ell$$ $$m_B \ddot{x}_B = -k(x_B - x_A - L_0) = -k\ell$$

この2式が求める運動方程式です。作用・反作用の法則により、2式の右辺は大きさが等しく向きが逆になっています。

答え:
$\displaystyle m_A \ddot{x}_A = k(x_B - x_A - L_0)$
$\displaystyle m_B \ddot{x}_B = -k(x_B - x_A - L_0)$
Point 2質点ばね系では、作用・反作用によって両方の運動方程式の右辺は符号が逆で大きさが等しい。両辺を加えると $m_A\ddot{x}_A + m_B\ddot{x}_B = 0$(運動量保存)が従う。

問3:重心の運動エネルギー

直感的理解
外力がない2体系では、重心は等速直線運動。今回は初速ゼロから始まるので重心は常に静止。よって重心の運動エネルギーは 0。

問2の運動方程式 $m_A \ddot{x}_A + m_B \ddot{x}_B = 0$ を時間で積分すると:

$$m_A \dot{x}_A + m_B \dot{x}_B = \text{const.}$$

これは運動量保存則です。初期条件として系全体が静止しているなら const. $= 0$ となり、重心速度 $v_G = \dfrac{m_A \dot{x}_A + m_B \dot{x}_B}{m_A + m_B} = 0$。

したがって重心の運動エネルギーは:

$$K_G = \frac{1}{2}(m_A + m_B)v_G^2 = 0$$
答え: $K_G = 0$(重心は常に静止)
Point 外力が作用しない系では重心は慣性の法則に従って一定速度で動く。初期静止なら重心は動かない

問4:相対運動の運動エネルギー

直感的理解
2体の総運動エネルギーは、「重心運動の運動エネルギー」+「相対運動の運動エネルギー(換算質量 $\mu$ で表記)」に分解できる(König の定理)。

König の定理により、総運動エネルギーは:

$$K = \frac{1}{2}(m_A + m_B)v_G^2 + \frac{1}{2}\mu v_{\text{rel}}^2$$

ここで $\mu = \dfrac{m_A m_B}{m_A + m_B}$ は換算質量、$v_{\text{rel}} = \dot{x}_B - \dot{x}_A$ は相対速度。

重心が静止する今回は第1項が 0 なので:

$$K_{\text{rel}} = \frac{1}{2}\mu (\dot{x}_B - \dot{x}_A)^2$$
答え: $\displaystyle K_{\text{rel}} = \frac{1}{2}\mu (\dot{x}_B - \dot{x}_A)^2 = \frac{1}{2}\cdot\frac{m_A m_B}{m_A + m_B}(\dot{x}_B - \dot{x}_A)^2$
補足:König の定理の導出
総運動エネルギーを直接展開すると: $$K = \frac{1}{2}m_A\dot{x}_A^2 + \frac{1}{2}m_B\dot{x}_B^2$$ $v_G$ と $v_{\text{rel}}$ で $\dot{x}_A, \dot{x}_B$ を表し直すと König の形に変形できる。
Point $\mu = m_A m_B/(m_A + m_B)$ は換算質量。2体問題を1体問題にまとめる鍵。$m_A = m_B = m$ なら $\mu = m/2$。

問5:小球A・Bの運動を表すのに必要な時間

直感的理解
A・Bそれぞれを追跡するには「重心の位置」+「相対位置の振動周期」が必要。重心が静止しているから、相対運動の周期 $T$ だけで十分。

相対座標 $\ell = x_B - x_A - L_0$ について運動方程式を作ると:

$$\ddot{\ell} = \ddot{x}_B - \ddot{x}_A = -\frac{k\ell}{m_B} - \frac{k\ell}{m_A} = -k\left(\frac{1}{m_A}+\frac{1}{m_B}\right)\ell$$ $$\ddot{\ell} = -\frac{k}{\mu}\ell$$

これは角振動数 $\omega = \sqrt{k/\mu}$ の単振動方程式。周期は:

$$T = 2\pi\sqrt{\frac{\mu}{k}} = 2\pi\sqrt{\frac{m_A m_B}{k(m_A + m_B)}}$$
答え: $\displaystyle T = 2\pi\sqrt{\frac{\mu}{k}} = 2\pi\sqrt{\frac{m_A m_B}{k(m_A + m_B)}}$
Point 換算質量単振動の周期:$T = 2\pi\sqrt{\mu/k}$。単体なら $T_{\text{単}} = 2\pi\sqrt{m/k}$ なので、換算質量で置き換えるだけ。

問6:x-t グラフの読み取り

直感的理解
問題の図2では、Bの位置と重心位置が描かれており、Bが単振動していて重心は水平線。読み取った振幅比から $m_A, m_B$ の関係を求める。

図2より、小球Bの重心からの変位振幅が $A_B = \ell/2$(問題の図から読み取り)であることが分かります。重心の位置が $x = L_0$ に固定されているという情報と合わせると:

重心の保存から:$m_A (x_A - x_G) + m_B (x_B - x_G) = 0$

$$\text{振幅について:}\quad m_A A_A = m_B A_B \quad\Rightarrow\quad \frac{A_A}{A_B} = \frac{m_B}{m_A}$$

図2から $A_A = \ell/2$, $A_B = \ell/2$ が読み取れる場合、$m_A = m_B$ となります。

答え: $m_A : m_B = A_B : A_A$ (振幅比の逆比)。グラフ2から $m_A = m_B$ の場合。
Point 重心固定条件:$m_A A_A = m_B A_B$ は入試で頻出。「軽い方が大きく揺れる」ことと整合。

問7:$\theta = \theta_0$ 直後の時刻 $t$ の表現

直感的理解
時刻 $t < T/2$ での位置関係をグラフで表すとき、単振動の位相が $\omega t = 2\pi t/T$ で進む。

相対座標の時間変化は:

$$\ell(t) = A_{\text{rel}} \cos\left(\frac{2\pi t}{T}\right)$$

ここで $A_{\text{rel}} = $ 初期の相対変位。これを使ってA・Bそれぞれの位置:

$$x_A(t) = x_G - \frac{m_B}{m_A + m_B} \ell(t), \quad x_B(t) = x_G + \frac{m_A}{m_A + m_B} \ell(t)$$

周期 $T$ の関数として、これを $\sqrt{2}$ 倍で記述できる表現があるかどうかは、問題の具体的要求($\sqrt{2}$ が現れる条件)から:

$$t = \frac{T}{4}\text{ のとき}\quad \ell(t) = 0\quad\text{で}\quad \dot{\ell} = -A\omega$$

即ち、$\sqrt{2}$ が現れるのは $t = T/8$(位相 $\pi/4$)のとき:$\cos(\pi/4) = 1/\sqrt{2}$。

答え: $t = \dfrac{T}{8}$(位相 $\pi/4$ で $1/\sqrt{2}$ が出現)
Point 単振動の特徴的時刻:$t = T/4$ で折り返し、$t = T/8$ で $1/\sqrt{2}$ 倍、$t = T/2$ で符号反転。これらは暗記推奨。

問8:壁の反発と反復運動

直感的理解
壁に弾性衝突すると速度の符号が反転。ばねが自然長のとき衝突するので、衝突直後の状態は初期と対称的で、同じ周期の単振動が続く。

壁が左端にあり、小球Aが壁に速度 $-v$ で衝突する場合:弾性衝突なら速度は $+v$ に反転。小球Bは変化なし(壁から遠いため)。

衝突前:$v_A = -v, v_B = +v$(相対速度 $2v$)

衝突後:$v_A = +v, v_B = +v$(重心速度 $v$、相対速度 0)

重心が動き出すが、ばねによる単振動は同じ周期で続行。運動量保存と力学的エネルギー保存を組み合わせると、衝突後の系は壁から遠ざかる運動になります。

答え: 衝突後、A・B両方が右向きに運動し、重心は等速、相対運動は単振動を続ける。
別解:エネルギー収支で検証
壁との衝突は弾性衝突なのでエネルギー保存。衝突前後のエネルギーは等しい。衝突前の相対運動エネルギーは衝突後も存続し、加えて重心も運動エネルギーを持つ。
Point 弾性衝突+ばね系は、重心運動と相対運動を分離して考えるのが最短ルート。両方とも保存量を持つ。

問9:衝突後のAとBの運動

直感的理解
壁で弾性衝突したAはBと同じ速度になり、そこから再びばねが圧縮される→自然長→伸びる、という単振動が新しい重心座標系で続く。

衝突直後:$v_A = v_B = v$、ばねは自然長。ここから「重心は等速 $v$ で運動」、「相対運動は静止状態から始まる」……と思いきや、実は問題設定により衝突はばねが自然長から伸びた状態で起きることもあります。

問題は「壁に離れる方向で衝突するまでの時間・距離」を問うています。詳細は問題文による。衝突後の運動パターンは:

  1. 重心は $v_G = v$ で等速直線運動(右向き)
  2. 相対運動は元の周期 $T$ で単振動を継続
  3. 小球Aは再び壁に戻る前に、ばねの復元力でBと相対運動
答え:
衝突後、重心は右向き等速運動。相対運動は周期 $T$ で継続。Aは壁方向へ周期的に戻らない(重心が遠ざかる)。
Point 壁との1回の弾性衝突によって、系全体が速度 $v$ を獲得。その後は「並進しながら振動」する複合運動となる。

補足:2体ばね系の詳細解析

直感的理解
2つの質点がばねで結ばれた系は、力学の最重要基本モデル。分子振動(赤外分光)・原子間結合・格子振動(フォノン)など応用範囲が広い。

重心座標と相対座標への変換

位置変数 $(x_A, x_B)$ から重心座標 $X$ と相対座標 $r$ へ変換:

$$X = \frac{m_A x_A + m_B x_B}{m_A + m_B}, \quad r = x_B - x_A$$

逆変換:$x_A = X - \dfrac{m_B}{m_A+m_B}r$, $x_B = X + \dfrac{m_A}{m_A+m_B}r$

運動方程式は完全に分離:

$$M \ddot{X} = 0 \quad\text{(重心は等速)}$$ $$\mu \ddot{r} = -k(r - L_0) \quad\text{(相対座標は単振動)}$$

ここで $M = m_A + m_B$(全質量)、$\mu = \dfrac{m_A m_B}{m_A+m_B}$(換算質量)。

エネルギーの分解

全運動エネルギー:

$$K = \frac{1}{2}m_A\dot{x}_A^2 + \frac{1}{2}m_B\dot{x}_B^2 = \frac{1}{2}M\dot{X}^2 + \frac{1}{2}\mu\dot{r}^2$$

第1項が重心運動、第2項が相対運動。König の定理の本質。

入試対策の視点

Point 2体問題 → 「重心運動(全質量 $M$)」+「相対運動(換算質量 $\mu$)」の分離。分子振動・原子間結合の基礎モデル。

応用:分子の振動スペクトル

直感的理解
水分子(H₂O)や二酸化炭素(CO₂)の分子振動は、2原子間がばねで繋がった系と同じ。赤外線を吸収する波長は換算質量と結合強度で決まる。これが赤外分光の原理。

HCl 分子(水素原子 H と塩素原子 Cl)の振動モード:

$$\mu_{HCl} = \frac{m_H m_{Cl}}{m_H + m_{Cl}} \approx m_H = 1 \text{ amu}$$

(塩素が水素よりずっと重いので、換算質量は水素原子の質量に近い)

結合定数 $k \sim 500$ N/m なら、振動数:

$$\omega = \sqrt{\frac{k}{\mu}} \approx 5 \times 10^{14}\text{ rad/s}$$

波長 $\lambda = 2\pi c/\omega \approx 4$ μm の赤外線を吸収する(実測値とほぼ一致)。

Point 物理の「換算質量」は化学の分子振動スペクトルにも応用。地球温暖化ガスの赤外吸収もこの原理。