基本例題2 速度の合成

設問(1) 上り・下りの時間

直感的理解
川の流れに沿って進むとき、上り(流れに逆らう)は速度が引かれ、下り(流れに乗る)は速度が足される。川岸から見た船の速度 = 静水速度 ± 流速。シミュレーションで上り・下りを切り替えて、到着時間の差を体感してみましょう。

設定:船の静水速度 $v_0 = 4.0$ m/s、流速 $u = 2.0$ m/s、A-B間の距離 $L = 72$ m。

立式:速度の合成より、川岸から見た船の速度を求めます。

上り(B → A、流れに逆らう):

$$v_{\text{上り}} = v_0 - u = 4.0 - 2.0 = 2.0 \text{ m/s}$$ $$t_1 = \frac{L}{v_{\text{上り}}} = \frac{72}{2.0} = 36 \text{ s}$$

下り(A → B、流れに乗る):

$$v_{\text{下り}} = v_0 + u = 4.0 + 2.0 = 6.0 \text{ m/s}$$ $$t_2 = \frac{L}{v_{\text{下り}}} = \frac{72}{6.0} = 12 \text{ s}$$
答え:
$$t_1 = 36 \text{ s}、\quad t_2 = 12 \text{ s}$$
別解:調和平均による往復時間

往復運動の平均速度は調和平均で求まります。上りの速度 $v_1 = 2.0$ m/s、下りの速度 $v_2 = 6.0$ m/s のとき:

$$\bar{v} = \frac{2 v_1 v_2}{v_1 + v_2} = \frac{2 \times 2.0 \times 6.0}{2.0 + 6.0} = \frac{24.0}{8.0} = 3.0 \text{ m/s}$$

往復の総距離は $2L = 144$ m なので:

$$t_{\text{往復}} = \frac{2L}{\bar{v}} = \frac{144}{3.0} = 48 \text{ s}$$

これは $t_1 + t_2 = 36 + 12 = 48$ s と一致します。往復運動では算術平均 $(2.0 + 6.0)/2 = 4.0$ m/s ではなく、調和平均 $3.0$ m/s が正しい平均速度になることに注意しましょう。

Point

川に沿って進むとき、上りは $v_0 - u$、下りは $v_0 + u$。往復の時間は等しくならない(上りの方が時間がかかる)。

設問(2) 川を直角に横切る角度 $\theta$

直感的理解
川を「まっすぐ」横切りたいなら、流されないように上流に向かって斜めに進む必要があります。船の速度の川方向の成分で流速をちょうど打ち消し、残りの成分で対岸に進みます。スライダーで角度を変えて、合成速度が対岸に垂直になる瞬間を見つけてみましょう。

設定:船を川の流れに対して角度 $\theta$(岸からの角度)の方向に向けます。川を直角に横切るには、合成速度が岸に垂直でなければなりません。

立式:船の速度の川方向の成分が流速を打ち消す条件を立てます。

$$v_0 \cos\theta = u$$

計算:

$$\cos\theta = \frac{u}{v_0} = \frac{2.0}{4.0} = 0.50$$ $$\theta = \arccos(0.50) = 60°$$

確認:$\sin 60° = \dfrac{\sqrt{3}}{2}$、$\cos 60° = \dfrac{1}{2}$ なので、辺の比 $1 : 2 : \sqrt{3}$ の直角三角形です。

答え:
$$\theta = 60°$$
Point

川を直角に横切るには、船の速度の川方向成分で流速を相殺する。$v_0 \cos\theta = u$ を解いて $\theta$ を求める。

設問(3) 川を横切る時間

直感的理解
設問(2)で流れを相殺したので、残るのは対岸に向かう成分だけ。この「正味の横断速度」で川幅を割れば横断時間が求まります。アニメーションで、船が真っ直ぐ対岸に到達する様子を確認しましょう。

設定:設問(2)より $\theta = 60°$。合成速度は対岸方向のみで、その大きさは船の速度の対岸方向成分です。

立式:対岸方向の速度成分を求めます。

$$v_{\perp} = v_0 \sin\theta = 4.0 \times \sin 60° = 4.0 \times \frac{\sqrt{3}}{2} = 2\sqrt{3} \text{ m/s}$$

計算:川幅 $d = 60$ m を横切る時間は

$$t = \frac{d}{v_{\perp}} = \frac{60}{2\sqrt{3}} = \frac{60}{2\sqrt{3}} \times \frac{\sqrt{3}}{\sqrt{3}} = \frac{60\sqrt{3}}{6} = 10\sqrt{3} \fallingdotseq 17 \text{ s}$$
答え:
$$t = 10\sqrt{3} \fallingdotseq 17 \text{ s}$$
補足:なぜ往復の合計時間は「流れがない場合」より長いか

設問(1)で、流れがない場合の往復時間は $2 \times 72/4.0 = 36$ s です。

流れがある場合は $t_1 + t_2 = 36 + 12 = 48$ s と、明らかに長くなります。

これは「下りで得する時間 < 上りで損する時間」だからです。速度と時間は反比例なので、速度が同じだけ増減しても、時間の減少分より増加分の方が大きくなります。

補足:三角関数を使った速度分解の一般公式

流速のある川を角度 $\theta$(岸からの角度)で進む船の速度を一般的に分解すると:

  • 川方向の成分(流れに逆らう方向):$v_{\text{川}} = v_0 \cos\theta$
  • 対岸方向の成分(横断方向):$v_{\perp} = v_0 \sin\theta$

流速 $u$ との合成後:

$$\vec{v}_{\text{合成}} = \begin{pmatrix} u - v_0 \cos\theta \\ v_0 \sin\theta \end{pmatrix}$$

直角横断の条件は川方向成分がゼロ、すなわち $v_0 \cos\theta = u$ です。このとき合成速度の大きさは:

$$|\vec{v}_{\text{合成}}| = v_0 \sin\theta = \sqrt{v_0^2 - u^2}$$

(ピタゴラスの定理 $\sin\theta = \sqrt{1 - \cos^2\theta}$ より)。本問では $\sqrt{4.0^2 - 2.0^2} = \sqrt{12} = 2\sqrt{3}$ m/s です。

Point

川を直角に横切るとき、実際の横断速度は $v_{\perp} = v_0 \sin\theta$。$t = d / v_{\perp}$ で横断時間を求める。流速の成分は打ち消されているので、横断には寄与しない。