応用問題106 物体が傾く条件

設問(1) 垂直抗力の作用点

直感的理解
斜面上の直方体には、重力の斜面方向成分(すべらせようとする力)と斜面垂直成分(押し付ける力)がはたらきます。斜面方向成分は物体を「すべらせる」と同時に「倒す」効果も持ちます。垂直抗力の作用点が物体の下端に移動していき、端に達すると傾き始めます。スライダーで角度や形状を変えて、すべりと傾きの競合を観察しましょう。

斜面座標での力の整理:

重心Gまわりの力のモーメントのつりあい:

垂直抗力 $N$ の作用点をOから距離 $d$ の位置、重心Gは底面の中心(Oから $b/2$)にあります。Gまわりのモーメントを考えると、$N$ のモーメント腕は $(d - b/2)$、摩擦力 $F$ のモーメント腕は $a/2$(重心の高さ)です。

つりあいの式:

$$N\left(d - \frac{b}{2}\right) = F \cdot \frac{a}{2}$$

$N = mg\cos\theta$、$F = mg\sin\theta$ を代入:

$$mg\cos\theta\left(d - \frac{b}{2}\right) = mg\sin\theta \cdot \frac{a}{2}$$ $$d - \frac{b}{2} = \frac{a\tan\theta}{2}$$ $$d = \frac{b}{2} + \frac{a\tan\theta}{2} = \frac{b + a\tan\theta}{2}$$

数値例:$a = 0.40$ m、$b = 0.20$ m、$\theta = 30°$ のとき:

$$d = \frac{0.20 + 0.40 \times \tan 30°}{2} = \frac{0.20 + 0.40 \times 0.577}{2} = \frac{0.20 + 0.231}{2} = 0.216 \text{ m}$$
答え(1):
垂直抗力の作用点は、物体の下端Oから $$d = \frac{b + a\tan\theta}{2}$$ の距離にある。
Point

斜面上の剛体は重心まわりのモーメントのつりあいで垂直抗力の作用点を求める。$\theta$ が大きくなるとNの作用点は下端Oの方から上端へ移動する。

設問(2) すべりだすより先に倒れる条件

直感的理解
物体が傾く臨界角は $d = b$(作用点が上端に到達)で決まり、すべる臨界角は $\tan\theta = \mu$ で決まります。傾く角度がすべる角度より小さいとき、すべりより先に傾きます。

傾き始める条件: $d = b$(垂直抗力の作用点が上端に達する)

$$(1)の結果に d = b を代入:\quad \frac{b + a\tan\theta}{2} = b$$ $$b + a\tan\theta = 2b \quad \Rightarrow \quad a\tan\theta = b$$ $$\tan\theta = \frac{b}{a}$$

$\theta$ がこの値を超えると物体は傾きます。一方、すべりだす条件は摩擦力が最大静止摩擦力に達するときで $mg\sin\theta = \mu mg\cos\theta$、すなわち $\tan\theta = \mu$。

すべりだすより先に倒れるためには、傾く臨界角がすべる臨界角より小さい必要があります:

$$\frac{b}{a} < \mu$$

このとき $\tan\theta$ が $b/a$ を超えた瞬間(まだ $\mu$ に達する前に)倒れ始めます。

数値例:$a = 0.40$ m、$b = 0.20$ m のとき、傾く臨界条件は $\tan\theta = 0.20/0.40 = 0.50$($\theta = 26.6°$)。$\mu = 0.60$ なら $0.50 < 0.60$ なので、すべりより先に傾きます。

答え(2):
$$\tan\theta > \frac{b}{a}$$

設問(3) 倒れるより先にすべりだす条件

直感的理解
倒れるより先にすべるためには、すべる臨界角($\tan\theta = \mu$)が傾く臨界角($\tan\theta = b/a$)より小さい必要があります。つまり $\mu < b/a$ です。

倒れるより先にすべりだす条件は、すべる臨界角($\tan\theta = \mu$)が傾く臨界角($\tan\theta = b/a$)より小さいこと:

$$\mu < \frac{b}{a}$$

数値例:$a = 0.40$ m、$b = 0.20$ m のとき $b/a = 0.50$。$\mu = 0.30$ なら $0.30 < 0.50$ を満たすので、$\theta$ を大きくしていくと $\theta = \arctan(0.30) = 16.7°$ で先にすべりだします。$\mu = 0.60$ なら $0.60 > 0.50$ なのでこの条件は満たされず、先に傾きます。

答え(3):
$$\mu < \frac{b}{a}$$
補足:すべりと傾きの統一的理解

斜面上の直方体には2つの臨界角があります:

現象 臨界条件 決定要因
すべり $\tan\theta = \mu$ 摩擦係数のみ
傾き $\tan\theta = b/a$ 形状のみ

$\mu > b/a$(摩擦が大きい)→ 先に傾く(縦長の物体ほど倒れやすい)

$\mu < b/a$(摩擦が小さい)→ 先にすべる(横長の物体ほどすべりやすい)

$\mu = b/a$ のとき、すべりと傾きが同時に起きます。

Point

斜面上の直方体は、すべり($\tan\theta = \mu$)と傾き($\tan\theta = b/a$)の2つの臨界角を比較して、小さい方が先に起きる。すべりは摩擦係数で、傾きは形状で決まる。