基本例題22 物体が傾く条件

設問(1) 垂直抗力の作用点

直感的理解
水平に引く力 $T$ を大きくすると、直方体は引く方向に倒れようとします。このとき垂直抗力の作用点Pは引く方向の端に移動していきます。Pが端に到達した瞬間が「傾き始める」瞬間です。スライダーでTを変えて、Pの移動と傾きの様子を観察しましょう。

力の整理:

力のつりあい:

重心Gまわりの力のモーメントのつりあい:

重心Gは底面の中心(高さ $h/2$、底面中央)にあります。Gまわりで時計回りを正としてモーメントを立てます。

つりあいの条件:

$$N \cdot x = T \cdot \frac{h}{2}$$

$N = mg$ を代入:

$$mg \cdot x = T \cdot \frac{h}{2} \quad \Rightarrow \quad x = \frac{Th}{2mg}$$

数値例:$m = 2.0$ kg、$h = 0.40$ m、$l = 0.20$ m、$T = 4.9$ N、$g = 9.8$ m/s² のとき:

$$x = \frac{4.9 \times 0.40}{2 \times 2.0 \times 9.8} = \frac{1.96}{39.2} = 0.050 \text{ m} = 5.0 \text{ cm}$$
答え(1):
$$x = \frac{Th}{2mg}$$

設問(2) 傾き始めるときの $T_0$

直感的理解
物体が傾き始める直前、垂直抗力の作用点Pが物体の端に到達します。つまり $x = \frac{l}{2}$(物体の中心から端までの距離)が傾く臨界条件です。

傾き始めるとき $x = \dfrac{l}{2}$(Pが物体の端に達する)なので、(1)の結果に代入:

$$\frac{T_0 h}{2mg} = \frac{l}{2}$$

$T_0$ について解くと:

$$T_0 = \frac{mgl}{2h}$$

数値例:$m = 2.0$ kg、$h = 0.40$ m、$l = 0.20$ m、$g = 9.8$ m/s² のとき:

$$T_0 = \frac{2.0 \times 9.8 \times 0.20}{2 \times 0.40} = \frac{3.92}{0.80} = 4.9 \text{ N}$$
答え(2):
$$T_0 = \frac{mgl}{2h}$$

設問(3) すべるより先に傾くための $\mu$ の条件

直感的理解
物体が「すべる前に傾く」ためには、すべりだす力($\mu mg$)が傾き始める力($T_0$)より大きい必要があります。つまり最大静止摩擦力のほうが大きければ、すべりより先に傾きます。

すべりだす条件:$T = F_{\max} = \mu N = \mu mg$

すべるより先に傾くためには、傾くときの力 $T_0$ がすべるときの力 $\mu mg$ より小さい必要があります:

$$T_0 < \mu mg$$ $$\frac{mgl}{2h} < \mu mg$$

両辺を $mg$ で割ると:

$$\frac{l}{2h} < \mu \quad \Rightarrow \quad \mu > \frac{l}{2h}$$

数値例:$h = 0.40$ m、$l = 0.20$ m のとき $l/(2h) = 0.20/(2 \times 0.40) = 0.25$。$\mu = 0.50$ なら $0.50 > 0.25$ を満たすので先に傾きます。$\mu = 0.20$ なら $0.20 < 0.25$ なので先にすべります。

答え(3):
$$\mu > \frac{l}{2h}$$
補足:すべりと傾きの競合

$T$ を増加させていくとき、先に起きる方が実現します:

  • すべり:$T = \mu mg$ のとき → 摩擦力が限界に達する
  • 傾き:$T = T_0 = \frac{mgl}{2h}$ のとき → 垂直抗力の作用点が端に到達

$T_0 < \mu mg$ → $\frac{l}{2h} < \mu$ のとき先に傾く。逆に $\mu < \frac{l}{2h}$ なら先にすべる。

縦長($h \gg l$)の物体は $\frac{l}{2h}$ が小さく傾きやすい。横長($l \gg h$)の物体はすべりやすい。

Point

物体が傾く条件:引く力を大きくすると垂直抗力の作用点が端に移動する。作用点が端に達したとき傾き始め、$T_0 = \frac{mgl}{2h}$。すべりより先に傾くには $\mu > \frac{l}{2h}$。