基本例題27 力学的エネルギーの保存

設問(1)(2) 衝突直前の速さとエネルギー

直感的理解
糸は伸びないので、AとBは常に同じ速さ $v$ で動きます。Bが高さ $h$ だけ下降するとき、Aは高さ $h$ だけ上昇します。重い方のBが下がることで系全体の位置エネルギーが減少し、その分が運動エネルギーに変わります。A, B を「ひとつの系」として考えるのがポイントです。

設問(1):Bが床に衝突する直前の各物体の力学的エネルギー

糸の張力は内力で系の仕事に寄与しません。はたらく外力は重力(保存力)のみなので力学的エネルギーは保存されます。

糸でつながっているため A, B は同じ速さ $v$ で動きます。床を基準にとると:

A のエネルギー:

$$E_A = K_A + U_A = \frac{1}{2}mv^2 + mgh$$

B のエネルギー:

$$E_B = K_B + U_B = \frac{1}{2}Mv^2 + 0 = \frac{1}{2}Mv^2$$

設問(2):衝突直前の速さ $v$

初期状態(A:床上、B:高さ $h$、速さ 0)→ 衝突直前のエネルギー保存:

$$0 + 0 + 0 + Mgh = \frac{1}{2}mv^2 + mgh + \frac{1}{2}Mv^2 + 0$$ $$(M - m)gh = \frac{1}{2}(M + m)v^2$$ $$v = \sqrt{\frac{2(M-m)gh}{M+m}}$$
答え(1):

A の力学的エネルギー:$\dfrac{1}{2}mv^2 + mgh$

B の力学的エネルギー:$\dfrac{1}{2}Mv^2$

答え(2):
$v = \sqrt{\dfrac{2(M-m)gh}{M+m}}$
補足:$M = m$ の場合の物理的意味

$M = m$ のとき $v = 0$ となり、物体は動き出しません。これは直感的に正しく、質量が等しければ重力のモーメントがつりあうためです。$M > m$ が必要条件です。

別解:運動方程式から求める方法

A, B それぞれの運動方程式を立てて解くこともできます。糸の張力を $T$、加速度を $a$ とすると:

B:$Mg - T = Ma$

A:$T - mg = ma$

辺々加えて:$(M - m)g = (M + m)a$ より $a = \dfrac{(M-m)g}{M+m}$

$v^2 = 2ah$ より $v = \sqrt{2ah} = \sqrt{\dfrac{2(M-m)gh}{M+m}}$

Point

糸でつながった2物体は系としてエネルギー保存を適用する。糸の張力は内力で系の仕事に寄与しない。$v = \sqrt{\dfrac{2(M-m)gh}{M+m}}$ は滑車の典型公式。

具体的な数値で確認

軽い滑車に糸でつるされた2物体 A(質量 \(m = 1.0\) kg)と B(質量 \(M = 3.0\) kg)。Bが \(h = 0.50\) m 下降したときの2物体の共通の速さを計算する。重力加速度 \(g = 9.8\) m/s²。

系全体のエネルギー保存:Bが \(h\) 下がる間にAは \(h\) 上がる。位置エネルギーの変化(系全体):

$$ \Delta U = -Mgh + mgh = -(M - m) g h = -(3.0 - 1.0) \times 9.8 \times 0.50 = -9.8 \text{ J} $$

運動エネルギーの変化(A,Bは同じ速さ \(v\)):

$$ \Delta K = \tfrac{1}{2}(m + M) v^2 - 0 = \tfrac{1}{2}(1.0 + 3.0) v^2 = 2.0 v^2 $$

力学的エネルギー保存 \(\Delta K + \Delta U = 0\) より:

$$ 2.0 v^2 = 9.8 \;\Longrightarrow\; v^2 = 4.9 \text{ m}^2/\text{s}^2 $$ $$ v = \sqrt{4.9} \fallingdotseq 2.21 \text{ m/s} $$

これはBの単独自由落下の速さ \(\sqrt{2gh} = \sqrt{9.8} \fallingdotseq 3.13\) m/s より小さい(Aを引き上げる分、加速が抑えられる)。