応用問題175 慣性力

設問(1) 垂直抗力

直感的理解
台の上に固定した座標系(加速度系)で考えると、小物体には重力、垂直抗力、慣性力の3つがはたらきます。斜面に垂直な方向のつりあいから \(N\) が求まります。慣性力は台の加速度と逆向き(台が右に加速なら、慣性力は左向き)です。

立式:台に固定された座標系(非慣性系)で、小物体には重力 \(mg\)(下向き)、垂直抗力 \(N\)(斜面に垂直)、慣性力 \(mA\)(加速度と逆の水平方向)の3力が作用します。

斜面に垂直な方向のつりあい:

$$ N = mg\cos\theta + mA\sin\theta = m(g\cos\theta + A\sin\theta) $$
答え:
$$N = m(g\cos\theta + A\sin\theta)$$
Point

加速度系では慣性力を追加してつりあい(または運動方程式)を立てる。斜面に垂直/平行に分解するのが基本。

設問(2) 台から見た加速度

直感的理解
台から見ると、小物体は斜面に沿ってすべり落ちます。重力の斜面成分は下向き、慣性力の斜面成分は上向きなので、加速度は単に斜面上を滑る場合より小さくなります。

立式:台に固定した座標系で、斜面に沿った方向(斜面下向きを正)の運動方程式:

$$ ma = mg\sin\theta - mA\cos\theta $$ $$ \therefore \quad a = g\sin\theta - A\cos\theta $$
答え:
$$a = g\sin\theta - A\cos\theta$$
Point

加速度系での斜面方向の運動方程式。慣性力の斜面成分が重力の斜面成分を打ち消す方向にはたらく。

設問(3)(4) 台の運動方程式と加速度 \(A\)

直感的理解
台が加速する原因は、斜面上の小物体からの垂直抗力の水平成分 \(N\sin\theta\) です。小物体が斜面を押す力の反作用が台を押すのです。\(N\) に設問(1)の結果を代入して連立すると \(A\) が求まります。

設問(3):地上から見た台(質量 \(M\))の水平方向の運動方程式:

台にはたらく水平方向の力は、小物体からの抗力の水平成分 \(N\sin\theta\) のみ(作用・反作用):

$$ MA = N\sin\theta $$

設問(4):設問(1)の \(N = m(g\cos\theta + A\sin\theta)\) を代入:

$$ MA = m(g\cos\theta + A\sin\theta)\sin\theta $$ $$ MA = mg\sin\theta\cos\theta + mA\sin^2\theta $$ $$ A(M + m\sin^2\theta) = mg\sin\theta\cos\theta $$ $$ \therefore \quad A = \frac{mg\sin\theta\cos\theta}{M + m\sin^2\theta} $$
答え:
設問(3):\(MA = N\sin\theta\)

設問(4):$$A = \frac{mg\sin\theta\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}$$
補足:分母の整理

分母の \(M - m\sin^2\theta\) は、台の運動方程式で力の向きを正しく取ると \(M + m\sin^2\theta\) となります。これは地上系で小物体と台の運動方程式を同時に立てることで確認できます。

実際には:\(MA = N\sin\theta\) で \(A\) は台の加速度(右向き正)、小物体の水平方向の運動方程式 \(ma_x = -N\sin\theta\) から連立すると正しく求まります。

Point

台と物体の連立問題:台の運動方程式と、物体から求めた抗力を連立して加速度を決定する。

設問(5) 台が移動した距離

直感的理解
水平面がなめらかなので、系全体に外力の水平成分はゼロです。つまり水平方向の運動量が保存されます。重心が動かない条件から、台の移動距離が求まります。小物体が左に動くと台は右に動く、という逆方向の動きがポイントです。

立式:水平方向の外力はゼロなので、重心は動きません(運動量保存、初期状態で全体静止):

$$ M \Delta x_{\text{台}} + m \Delta x_{\text{物体}} = 0 $$

台が右に \(\Delta x_{\text{台}}\) 動くと、小物体は台上で斜面を \(L\) すべり、地上から見た水平移動は \(\Delta x_{\text{台}} - L\cos\theta\)(台と一緒に右に動きつつ、台上で左に \(L\cos\theta\) 移動):

$$ M \Delta x_{\text{台}} + m(\Delta x_{\text{台}} - L\cos\theta) = 0 $$ $$ (M + m)\Delta x_{\text{台}} = mL\cos\theta $$
答え:
$$\Delta x_{\text{台}} = \frac{mL\cos\theta}{M + m}$$
Point

水平方向に外力がないとき、運動量保存(重心不動)を使う。台上での相対移動と地上から見た移動を区別する。

数値例で確認

上で導いた結果に具体的な数値を代入し、計算の流れを確認します。

エレベータ加速度 \(a = 2.0\) m/s\(^2\) (上向き), \(m = 50\) kg, \(g = 9.8\) m/s\(^2\) とする。慣性力 \(F_{in}\):

$$F_{in} = ma = 50 \times 2.0 = 100 \text{ N (下向き)}$$ $$N = m(g + a) = 50 \times (9.8 + 2.0) = 590 \text{ N}$$ $$W_{見かけ} = N = 590 \text{ N}$$
Point

記号の式に具体的な数値を代入することで、オーダー (桁) と単位を同時に検算できる。入試でも概数での検算は有効。