基本例題34 慣性力

設問(1) 加速度の向き

直感的理解
電車が右に加速すると、電車内の人から見るとおもりは左に取り残されようとします(慣性力が左向き)。そのため糸はに傾きます。つまり、糸が傾く向き=加速度の向きです。加速度を大きくすると傾きも大きくなることをスライダーで確認しましょう。

考察:電車内の人から見ると、おもりは静止しているように見えます。糸が鉛直方向から傾いているので、慣性力が加速度と反対向きにはたらいています。

糸が右に傾いているということは、慣性力は左向き。慣性力は加速度と逆向きなので:

答え:
電車の加速度の向きは右向き
Point

糸が傾く向きが加速度の向き。慣性力はその逆向き。電車内で静止して見える場合、「重力 + 慣性力 + 張力 = 0」のつりあい。

設問(2) \(\tan\theta\) の値

直感的理解
電車内の人から見たつりあいの力の三角形を描くと、鉛直方向に \(mg\)、水平方向に慣性力 \(ma\) が並び、この比が \(\tan\theta\) になります。加速度が大きいほど傾きが大きくなるのは直感的にも分かりますね。

立式:電車内の観測者から見たつりあい(慣性力を含む):

水平方向:

$$ S\sin\theta = ma \quad \cdots (1) $$

鉛直方向:

$$ S\cos\theta = mg \quad \cdots (2) $$

式(1) \(\div\) 式(2) より:

$$ \frac{\sin\theta}{\cos\theta} = \frac{a}{g} \quad \Rightarrow \quad \tan\theta = \frac{a}{g} $$
答え:
$$\tan\theta = \frac{a}{g}$$
Point

加速度系でのつりあいでは、水平:鉛直の力の比から \(\tan\theta\) が求まる。\(\tan\theta = \dfrac{a}{g}\) は慣性力の問題の基本形。

設問(3) 糸が引く力の大きさ

直感的理解
張力 \(S\) は、重力 \(mg\) と慣性力 \(ma\) の両方を支えなければなりません。三平方の定理で合成するのがポイントです。加速度がゼロなら \(S = mg\)(ただの鉛直つり下げ)ですが、加速度があると \(S > mg\) になります。

立式:つりあいの式 (1), (2) をそれぞれ2乗して足します(\(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\) を利用):

$$ S^2\sin^2\theta + S^2\cos^2\theta = (ma)^2 + (mg)^2 $$ $$ S^2 = m^2(a^2 + g^2) $$ $$ \therefore \quad S = m\sqrt{g^2 + a^2} $$
答え:
$$S = m\sqrt{g^2 + a^2}$$
Point

重力と慣性力が直交するとき、張力は三平方の定理 \(S = m\sqrt{g^2 + a^2}\) で求まる。

設問(4) 糸が切れたときの軌道

直感的理解
電車内の人から見ると、おもりには重力と慣性力がはたらいています。糸が切れると張力がなくなり、重力(下向き)と慣性力(左向き=加速度と逆向き)の合力で等加速度運動します。これは斜方投射と同じ放物線運動(軌道ア)です。

考察:電車内の人から見ると、糸が切れた瞬間からおもりには:

の2力がはたらきます。これらの合力の向きに等加速度直線運動を行うので、電車内の人から見たおもりの軌道は放物線です。

答え:
(放物線軌道)
補足:地上の観測者から見た場合

地上に静止している観測者から見ると、糸が切れた瞬間のおもりの速度は電車と同じ速度(水平右向き)です。切れた後は重力のみがはたらくので、水平投射の放物線を描きます。

電車内から見ても地上から見ても放物線ですが、見える向きが異なります。

Point

加速度系で糸が切れると、慣性力が「重力のような」役割を果たし、放物線運動(等加速度運動)が生じる。

数値例で確認

上で導いた結果に具体的な数値を代入し、計算の流れを確認します。

電車 \(a = 2.0\) m/s\(^2\), 物体 \(m = 0.50\) kg, \(g = 9.8\) m/s\(^2\) とする:

$$F_{in} = ma = 0.50 \times 2.0 = 1.0 \text{ N}$$ $$\tan\theta = \frac{a}{g} = \frac{2.0}{9.8} \fallingdotseq 0.204$$ $$\theta \fallingdotseq 11.5°$$
Point

記号の式に具体的な数値を代入することで、オーダー (桁) と単位を同時に検算できる。入試でも概数での検算は有効。