水平に押すと、物体は底面の反対側の端を支点にして回転しようとします。押す力のモーメント(傾ける方向)が重力のモーメント(戻す方向)を上回ると傾き始めます。ちょうどつりあう力 $F_0$ が「傾き始める力」です。スライダーで力を変えて、モーメントの変化を見てみましょう。
傾き始める瞬間、直方体は点 A(押す力と反対側の底面の端)を支点に回転し始めます。
点 A まわりのモーメントのつりあい(傾き始める瞬間):
傾ける方向(時計回り):押す力 $F_0$ のモーメント
$$M_F = F_0 \times h = F_0 \times 0.20$$戻す方向(反時計回り):重力 $W$ のモーメント
$$M_W = W \times \frac{a}{2} = 20 \times \frac{0.10}{2} = 20 \times 0.050$$つりあいの条件 $M_F = M_W$ より:
$$F_0 \times 0.20 = 20 \times 0.050$$ $$F_0 = \frac{20 \times 0.050}{0.20} = \frac{1.0}{0.20} = 5.0\,\text{N}$$「傾き始める」とは、垂直抗力と摩擦力の作用点が底面の端 A に集中する瞬間です。A まわりのモーメントを考えると、$N$ と $f$ のモーメントは 0 になり、$F_0$ と $W$ の2つだけの式になります。
物体を押すと「滑り出す」か「傾き始める」かのどちらかが先に起きます。滑り出す力は $F_s = \mu W$(最大静止摩擦力)、傾き始める力は $F_0 = Wa/(2h)$ です。どちらが小さいかで先に起こる現象が決まります。摩擦が小さい面($\mu$ が小さい)では先に滑り、摩擦が大きい面では先に傾きます。
水平方向の力 $F$ を大きくしていったとき:
傾く前に滑り出すには、$\mu W < \dfrac{Wa}{2h}$ すなわち:
$$\mu < \frac{a}{2h}$$数値を代入すると $\dfrac{a}{2h} = \dfrac{0.10}{2 \times 0.20} = 0.25$ なので:
同じ底面幅 $a$ でも、高さ $h$ が大きくなると $a/(2h)$ が小さくなり、傾き始める力 $F_0$ が小さくなります。つまり背の高い物体ほど傾きやすく、小さな摩擦でも傾きが先に起こるようになります。本棚や冷蔵庫の転倒防止に固定器具が必要な理由がこれです。
「先に滑るか、先に傾くか」は $\mu$ と $a/(2h)$ の大小関係で決まります。入試では「傾くか滑るかの判定」が頻出です。滑り出す力 $\mu W$ と傾き始める力 $Wa/(2h)$ を比較する習慣をつけましょう。