教科書(物理基礎) 問3:電子の運動と電流

解法

直感的理解
スイッチを入れるとすぐに電球が点きますが、電子が光速で飛んでいるわけではありません。電場の信号が光速で伝わるので、導線中のすべての電子が一斉に動き始めるのです。個々の電子の移動速度は実は非常に遅く、mm/s のオーダーです。

電子のドリフト速度(シミュレーション)

I = envS の導出

断面積 \(S\) の導線に、単位体積あたり \(n\) 個の自由電子が速度 \(v\) で移動しているとき、微小時間 \(\Delta t\) に断面を通過する電子は、長さ \(v\Delta t\)、断面積 \(S\) の円柱内にあるものです:

$$ \text{通過する電子数} = n \times S \times v\Delta t $$ $$ \text{通過する電気量} = nSv\Delta t \times e $$ $$ I = \frac{Q}{\Delta t} = envS $$

具体的な計算

銅線(\(n = 8.5 \times 10^{28}\,\text{/m}^3\))に \(I = 1.0\,\text{A}\) が流れ、断面積 \(S = 1.0\,\text{mm}^2 = 1.0 \times 10^{-6}\,\text{m}^2\) のとき:

$$ v = \frac{I}{enS} = \frac{1.0}{1.6 \times 10^{-19} \times 8.5 \times 10^{28} \times 1.0 \times 10^{-6}} $$ $$ = \frac{1.0}{1.36 \times 10^{4}} \fallingdotseq 7.4 \times 10^{-5}\,\text{m/s} \fallingdotseq 0.074\,\text{mm/s} $$
答え:
\(I = envS\) を変形して \(v = \frac{I}{enS}\)。値を代入すると \(v \fallingdotseq 0.074\,\text{mm/s}\) と、カタツムリよりも遅い。
補足:なぜスイッチを入れるとすぐ電球が点くのか

電子の移動速度は mm/s 以下ですが、電場の伝搬速度は光速(約 \(3 \times 10^8\,\text{m/s}\))に近いです。

スイッチを入れた瞬間、電場が光速で導線内を伝わり、すべての自由電子が一斉に動き始めます。水道管に例えると、蛇口を開けた瞬間に管内の水がすべて同時に動き出すのと同じです。

電子が光速で飛んでくるのではなく、「押す力」が光速で伝わるのです。

別解:体積と個数から考える方法

\(\Delta t = 1\,\text{s}\) に断面を通過する電子を数える別のアプローチ:

  1. \(I = 1.0\,\text{A}\) なので、1秒間に \(Q = 1.0\,\text{C}\) が通過
  2. 通過する電子数 \(= Q/e = 1.0/(1.6 \times 10^{-19}) = 6.25 \times 10^{18}\) 個
  3. これらが占める体積 \(= 6.25 \times 10^{18} / (8.5 \times 10^{28}) = 7.35 \times 10^{-11}\,\text{m}^3\)
  4. 円柱の長さ \(= V/S = 7.35 \times 10^{-11} / 10^{-6} = 7.35 \times 10^{-5}\,\text{m}\)
  5. 1秒でこの長さを移動 → \(v = 0.074\,\text{mm/s}\) ✓

数値計算:1.6 × 10 = 16

数値計算:1.6 × 10 = 16

Point

電子のドリフト速度は mm/s 程度で非常に遅い。しかし電場の伝搬は光速に近いため、スイッチを入れるとほぼ瞬時に回路全体に電流が流れます。\(I = envS\) の各量の単位(特に \(S\) の m² への変換、\(n\) の /m³)に注意しましょう。