なめらかな氷の上に、長さ \(4.0\ \text{m}\) の板が浮かんでいます。その上を、人が板の端から端まで歩きます。では、地面から見て人は何 m 進んだのでしょうか。「板の上を \(4.0\ \text{m}\) 歩いたのだから \(4.0\ \text{m}\)」と答えたくなりますが、それでは合いません。歩いているあいだ、足で蹴られた板のほうも動いているからです。このページでは、水平方向に外力がなければ重心は動かないことを出発点に、人と板が地面に対してそれぞれどれだけ動くのかを、2 本の式から求めます。
下の図は、氷の上の板(\(40\ \text{kg}\)・長さ \(4.0\ \text{m}\))の上を、人(\(60\ \text{kg}\))が端から端まで歩くようすです。「重心を見る」を押すと、歩いているあいだ重心(紫の印)がまったく動かないことを確かめられます。「変位を見る」を押すと、人と板が地面に対してどちら向きに何 m 動いたかが、上下の矢印で出ます。「⏸ 一時停止」で好きなところで止められ、「⟲ 最初から」で頭に戻ります。「動く台を登る」は、はじめから物体が動いている場合です。こちらでは重心は止まっておらず、一定の速さで進み続けます。外力がなければ変わらないのは重心の位置ではなく重心の速度で、いまの板の問題は「はじめが静止=重心の速度が 0」だから動かないだけ、という関係です(「板の上を歩く」で戻れます)。
なめらかな氷の上に、長さ \(L = 4.0\ \text{m}\)、質量 \(M = 40\ \text{kg}\) の板が置かれています。氷はなめらかなので、板は水平方向に自由に動けます。
その板の上を、質量 \(m = 60\ \text{kg}\) の人が、板の端から端まで歩きます。はじめは人も板も静止しています。
板の上を \(4.0\ \text{m}\) 歩いたのだから、地面から見ても \(4.0\ \text{m}\) 進んだ。そう考えたくなります。
ですが、人が地面に対して動くのは \(1.6\ \text{m}\) だけです。
足りない \(2.4\ \text{m}\) は、板が逆向きに下がったぶんです。人が前へ踏み出すたびに、板は後ろへずれていきます。
理由はひとつ。水平方向に外力がはたらかないので、人と板を合わせた重心がまったく動かないからです。
使う考え方:重心・運動量保存・相対変位・力学・2体問題
ここからが本題です。求める道すじは 2 段階あります。まず重心が動かないことを式にして、人の変位と板の変位を結ぶ 1 本目を作ります。次に「板の端から端まで歩いた」という条件を、もう 1 本の式にします。分からないものは 2 つ、式も 2 本。連立させれば、人と板が動いた距離がそれぞれ決まります。
氷はなめらかなので、床から水平方向の力ははたらきません。人が板を蹴る力と、板が人を押し返す力は、人と板のあいだではたらく内力です。
つまり、人と板をひとまとまりの系と見ると、水平方向に外力がはたらいていません。
外力がなく、はじめ静止していたのですから、この系の重心は最初から最後までまったく動きません。
人が地面に対して動いた変位を \(\Delta x_{\text{人}}\)、板が地面に対して動いた変位を \(\Delta x_{\text{板}}\) とします。重心が動かないことは、それぞれの変位に質量をかけて足すと 0 になる、という形で書けます。これを①式とします。
$$ 60\,\Delta x_{\text{人}} + 40\,\Delta x_{\text{板}} = 0 $$
式が 1 本では足りません。分からないものが \(\Delta x_{\text{人}}\) と \(\Delta x_{\text{板}}\) の 2 つあるので、もう 1 本、「板の端から端まで歩いた」という条件を式にします。
人は板に対して、板の長さぶんだけ動きます。ここで大事なのは、これが板を基準に測った距離だということです。地面から見た 2 つの変位の差がそれにあたるので、こう書けます。
$$ \Delta x_{\text{人}} - \Delta x_{\text{板}} = 4.0 $$
これを②式とします。
②式を \(\Delta x_{\text{人}}\) について解いておきます。
$$ \Delta x_{\text{人}} = \Delta x_{\text{板}} + 4.0 $$
これを①式の \(\Delta x_{\text{人}}\) のところへ代入します。
$$ 60(\Delta x_{\text{板}} + 4.0) + 40\,\Delta x_{\text{板}} = 0 $$
かっこを外し、\(\Delta x_{\text{板}}\) の項どうしをまとめます。
$$ 100\,\Delta x_{\text{板}} + 240 = 0 $$
240 を移項して両辺を 100 で割ると、板の変位が出ます。符号がマイナスになりました。板は人と逆向きに動いた、という意味です。
これを②式に戻せば、人が地面に対して動いた変位も出ます。板の上を \(4.0\ \text{m}\) 歩いたのに、地面から見ると半分以下しか進んでいません。
$$ \Delta x_{\text{板}} = -2.4\ \text{m} $$
$$ \Delta x_{\text{人}} = +1.6\ \text{m} $$
この問題のいちばんの落とし穴は、「板に対して \(4.0\ \text{m}\)」と「地面に対して \(4.0\ \text{m}\)」は別物だということです。
重心の式(①式)に入れてよいのは、地面を基準に測った変位のほうです。文字のまま解いておくと、答えはこうまとめられます。
$$ \Delta x_{\text{板}} = -\frac{m}{m+M}L, \qquad \Delta x_{\text{人}} = \frac{M}{m+M}L $$
それぞれの変位が相手の質量に比例している、というのがこの式の読みどころです。
使いどころを 1 つ。岸まで \(4.0\ \text{m}\) の氷の上でこの板を渡っても、岸には届きません。板を渡り切った時点で人が進んだのは \(1.6\ \text{m}\) だけで、岸まではまだ \(2.4\ \text{m}\) 残っています。
迷ったら 2 つをセットで思い出してください。符号を決めるのは人と板は必ず逆向きということ、大きさを決めるのは軽いほうが大きく動くということです。ここでは板(\(40\ \text{kg}\))のほうが人(\(60\ \text{kg}\))より軽いので、板の \(2.4\ \text{m}\) が人の \(1.6\ \text{m}\) より大きくなっています。