物理 > 動く解説 > 斜めの衝突

e 倍になるのは 1 成分だけ

🎯 1. この解説でわかること

ボールを床にまっすぐ落とすのではなく、斜めに当てたら、どの向きに跳ね返るでしょうか。「入射角=反射角」を思い浮かべた人が多いと思いますが、それは光の反射の話で、球の跳ね返りにそのまま持ちこむことはできません。このページでは、速度を床に平行な成分と床に垂直な成分の 2 つに分け、反発係数 \(e\) が効くのはそのうち片方だけであることを確かめてから、跳ね返る向きを表す式を導きます。

📌 ここが超重要

ここでは床はなめらかとします。つまり、床が球に及ぼす力は床に垂直な向きだけで、床に平行な向きには力を及ぼしません。このあとの「平行成分は変わらない」は、すべてこの前提の上に立っています。実際の床には摩擦があるので、当たった球には回転が付き、平行成分も少し変わります。

下の図では、なめらかな床に法線から角 \(\theta\) の向きで球を当て、跳ね返るようすを見られます(「⏸ 一時停止」で止め、「⟲ 最初から」でもう一度当て直せます)。「成分に分ける」を押すと、速度が床に平行な成分 \(v_x\)(緑)と床に垂直な成分 \(v_y\)(紫)の 2 本の矢印に分かれ、跳ね返ったあとの矢印には \(v_x{}' = v_x\)、\(v_y{}' = e\,v_y\) の札が付きます。反発係数 \(e\) のスライダーを動かして、緑の矢印の長さが変わらないこと、紫の矢印だけが短くなることを確かめてください。「角を見る」を押すと入射角 \(\theta\) と跳ね返る角 \(\theta'\) の弧が出ます。入射角は \(15^\circ\) から \(75^\circ\) まで、\(e\) は \(1\) まで動かせるので、両方を振って、角の開きぐあいがどう変わるか試してください。

なめらかな床に、法線から \(45^\circ\) の向きで球を当てます。角は床の面からではなく、床に立てた法線から測ることに注意してください。

反発係数は \(e = 0.50\) とします。

跳ね返る向きも、法線から \(45^\circ\) になるでしょうか。

いいえ、およそ \(63^\circ\) です。

入射より大きく開いて、床に寝る向きに飛び出します。

理由は 1 つです。床に平行な速度はそのままで、床に垂直な速度だけが \(0.50\) 倍になるからです。

使う考え方:反発係数・斜めの衝突・成分分解・力学

📐 2. 解説

ここからが本題です。道すじは 2 段階あります。まず、衝突の直前の速度を床に平行な成分と垂直な成分に分け、力積と反発係数の定義から、どちらが変わってどちらが変わらないのかを決めます。次に、その 2 成分の比をとって、跳ね返る向きの角を出します。角を正接(タンジェント)で扱うと、そのまま成分の比になるので、代入するだけで答えが出ます。

① 成分に分ける

① 成分に分けるの場面

まず、衝突の直前の速度を床に平行な成分と床に垂直な成分に分けます。平行な成分を \(v_x\)、垂直な成分を \(v_y\) と書くことにします。

床がなめらかというのは、床が平行方向には力を及ぼさないということです。つまり、平行方向にはたらく力はありません。

力がはたらかなければ力積は 0 です。力積は運動量の変化に等しいので、平行成分は衝突の前後で変わりません。

$$ v_x{}' = v_x $$

一方、垂直方向には床から大きな力を受けます。反発係数の定義に出てくる「近づく速さ」「遠ざかる速さ」は、どちらも床に垂直な向きの速さなので、この成分だけが \(e\) 倍になり、向きが上向きに変わります。

衝突で変わるのは、2 つの成分のうち片方だけです。変わるほうを式にすると、次の 1 本になります。

$$ v_y{}' = e\,v_y $$

② 角を出す

② 角を出すの場面

2 つの成分がそろったので、跳ね返る向きの角 \(\theta'\) を出します。角は法線から測っているので、その正接は垂直成分に対する平行成分の比になります。

$$ \tan\theta' = \frac{v_x{}'}{v_y{}'} $$

ここに、さきほど求めた \(v_x{}' = v_x\) と \(v_y{}' = e\,v_y\)(①)を代入します。

分子は衝突前と同じ \(v_x\) のまま、分母だけが \(e\,v_y\) に変わります。

$$ \tan\theta' = \frac{v_x}{e\,v_y} $$

\(e\) を前に出すと \(\dfrac{v_x}{v_y}\) が残り、これは入射角の正接 \(\tan\theta\) そのものです。

$$ \tan\theta' = \frac{\tan\theta}{e} $$

跳ね返る向きは、入射角の正接を \(e\) で割るだけで決まります。

数を入れます。\(\tan 45^\circ = 1\)、\(e = 0.50\) なので、

$$ \tan\theta' = \frac{1}{0.50} = 2 $$

\(\tan\theta' = 2\) となる角が、跳ね返る向きです。入射の \(45^\circ\) より \(18^\circ\) も開いたことになります。

$$ \theta' \fallingdotseq 63^\circ $$

🔑 3. まとめ

跳ね返る向きの正接 \(\tan\theta'\) は、入射角の正接を \(e\) で割った形でした。\(e\) が 1 より小さいかぎり \(\tan\theta' > \tan\theta\) なので、跳ね返った球は必ず入射より寝て飛びます。

入射角=反射角の条件の場面

「入射角=反射角」が成り立つのは、光の反射と、\(e = 1\)(完全弾性衝突)のときだけです。これを球の跳ね返りにそのまま持ちこむのが、いちばん多い誤りです。

向きだけでなく、速さも落ちます。跳ね返ったあとの速さを \(v'\) とすると、2 つの成分から次のように求まります。

$$ v' = \sqrt{v_x{}'^2 + v_y{}'^2} = \sqrt{v_x{}^2 + (e\,v_y)^2} $$

\(\theta = 45^\circ\)、\(e = 0.50\) なら \(0.79\) 倍で、およそ 2 割落ちます。

斜めの衝突は、まず床に平行な成分と垂直な成分に分ける。変わるのは垂直だけ、と決めてしまえば、あとは代入するだけです。

入射角=反射角 は \(e = 1\) だけ