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振り子を戻すのは張力ではない

🎯 1. この解説でわかること

糸につるしたおもりを横に引いて手を離すと、おもりはつりあいの位置へ戻ってきます。では、その戻す力は何でしょうか。「糸の張力」と答える人がとても多いのですが、それは違います。このページでは、おもりにはたらく力を洗い出し、重力を糸の方向と接線方向に分けて、戻しているのが接線方向の成分 \(mg\sin\theta\) であることを確かめます。さらに、この力はそのままでは単振動になりません。どこで近似すると単振動になるのか、その 1 か所まで追いかけます。

下の図は、長さ \(l\) の糸に質量 \(m\) のおもりをつるした単振り子です。図の \(\theta\) は、糸が鉛直となす角(振れ角)を表します。はじめは力の矢印が出ていないので、まず「力を分解」を押してください。重力 \(mg\) が、糸の方向の成分 \(mg\cos\theta\) と接線方向の成分 \(mg\sin\theta\) に分かれて出ます。「近似のずれ」を押すと、角 \(\theta\) の弧と、つりあいからの変位 \(x\) の札が出ます(2 つのボタンは切り替えで、あとに押したほうの表示になります)。「振れ角」を 5° から 45° まで動かして、接線成分 \(mg\sin\theta\) の矢印がどれだけ伸びるかを見てください。「糸の長さ \(l\)」を短くすると 1 往復が速くなります。いっぽう「振れ角」を変えても 1 往復にかかる時間はほとんど変わりません。振れ角が小さいうちは周期が振れ幅によらない、これが等時性です。ただし図の動きは近似したあとの式で計算しているので、45° まで振っても 1 往復の時間はまったく変わりません。実際の振り子では、このあたりで 4 % ほど長くなります。「⏸ 一時停止」で止まり、「⟲ 最初から」でいちばん振れたところに戻ります。

糸につるしたおもりを横に引いて手を離すと、おもりはつりあいの位置へ戻ってきます。この戻す力の正体は何でしょうか。

いちばん多い答えが糸の張力です。糸がおもりを引いているのだから、それが引き戻していると考えたくなります。

ですが、張力はおもりが進む向きにはまったく力を出しません。糸に沿った向きと、おもりが動く向きは、いつも垂直だからです。

戻しているのは、重力 \(mg\) のうち接線方向の成分、つまり \(mg\sin\theta\) です。ここで \(m\) はおもりの質量、\(\theta\) は糸が鉛直となす角です。

\(1.0\ \text{kg}\) のおもりを \(30^\circ\) まで引いたときの戻す力は、こうなります。$$ mg\sin 30^\circ = 1.0 \times 9.8 \times 0.5 = 4.9\ \text{N} $$

使う考え方:単振り子・力の分解・力学・復元力・近似

📐 2. 解説

ここからが本題です。2 段階で進みます。まずおもりが動く向きに目をつけて、張力がなぜ戻す力になれないのかを確かめ、重力を糸の方向と接線方向に分けます。次に、そこで出てきた \(mg\sin\theta\) がそのままでは単振動にならないことを見て、振れ角が小さいときにだけ使える近似で \(F = -\dfrac{mg}{l}x\) の形に直します。

① 張力は効かない

① 張力は効かないの場面

まず、なぜ張力が戻す力になれないのかを確かめます。おもりにはたらく力は、糸が引く張力 \(S\) と、鉛直下向きの重力 \(mg\) の 2 つだけです(糸は伸び縮みせず、空気の抵抗は考えません)。

張力はいつも糸に沿って支点の方を向いています。糸がたるまないかぎり、この向きは変わりません。

いっぽうおもりは、支点を中心とする円の弧の上を動きます。だから進む向きは、いつも糸と垂直な接線方向です。

力の向きと動く向きが垂直なので、張力は進む向きに押すことも引くこともできません。なす角が \(90^\circ\) なので、張力のする仕事も 0 です。

そこで、残った重力を糸の方向と接線方向の 2 つに分けます。糸が鉛直から \(\theta\) だけ傾いているので、鉛直下向きの重力と、支点からおもりへ向かう糸の向きとのなす角も \(\theta\) です。ここから \(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) が出てきます。

② 近似を使う 1 か所

② 近似を使う 1 か所の場面

分けた 2 つの成分は、糸の方向が \(mg\cos\theta\)、接線方向が \(mg\sin\theta\) です。糸方向の成分は張力 \(S\) と逆向きに糸に沿ってはたらくので、円運動の向心力になるのは 2 つの差 \(S - mg\cos\theta\) です。残った接線成分 \(mg\sin\theta\) だけがおもりを進む向きに動かします。これが振り子の復元力です。

ところが、この形のままでは単振動になりません。単振動の条件は「復元力が変位に比例し、いつも中心を向く」ことでした。ここでの変位は、つりあいの位置からの弧の長さですが、\(\sin\theta\) は \(\theta\) に比例していません。

そこで、振れ角が小さいときに限って \(\sin\theta \fallingdotseq \theta\) と置き換えます。この置き換えが、この話でただ 1 か所だけ使う近似です。ここで \(\theta\) は弧度法(ラジアン)で測った角で、度のままでは成り立ちません。

弧の長さは \(x = l\theta\) なので \(\theta = \dfrac{x}{l}\) です。振れる向き(\(\theta\) が増える向き)を正にとると、力はつねにその逆を向くので、

$$ F = -mg\sin\theta \fallingdotseq -mg\theta = -\frac{mg}{l}\,x $$

これは、ばねの復元力 \(F = -kx\) とまったく同じ形です。ここではじめて単振動になります。ばね定数にあたるのが \(\dfrac{mg}{l}\) なので、周期は \(T = 2\pi\sqrt{\dfrac{l}{g}}\) と書けます。ルートの中で \(m\) が消えるので、周期はおもりの重さによりません。

$$ F = -\dfrac{mg}{l}\,x $$

🔑 3. まとめ

振り子を戻しているのは、糸の張力でも重力 \(mg\) そのものでもなく、重力の接線方向の成分 \(mg\sin\theta\) でした。

近似が効く範囲の場面

そしてこの力は、振れ角が小さいときに限って \(\sin\theta \fallingdotseq \theta\) と近似でき、変位 \(x = l\theta\) に比例する \(F = -\dfrac{mg}{l}x\) になります。単振動になるのは、この近似をしたあとです。

逆に大きく振ると近似が崩れ、周期は少しずつ長くなります。振れ角 \(45^\circ\) では \(\sin\theta\) と \(\theta\) のずれがおよそ 10 %、周期は 4 % ほど長くなります。どこで近似したかを覚えておけば、いつずれるのかもすぐ分かります。

小さい角なら \(F = -\dfrac{mg}{l}x\)