振り子の糸を 4 倍の長さにすると、1 往復にかかる時間は何倍になるでしょうか。「長さが 4 倍なのだから時間も 4 倍」と答えたくなりますが、実際に測るとそうはなりません。しかも振り子は、おもりを重くしても、振れ幅を大きくしても、1 往復にかかる時間がほとんど変わりません。このページでは、振り子を戻している力は何かを確かめ、それがばねの復元力とまったく同じ形になることを見つけて、そこから周期の式を導きます。
下の図は、天井から糸でつるした単振り子です。図の上に糸の長さと振れ角が出ていて、下のスライダーでどちらも変えられます。糸の長さを 0.40 m と 1.60 m にして、往復の速さを見くらべてください。長さは 4 倍ですが、1 往復にかかる時間はおよそ 1.3 秒と 2.5 秒にしかなりません。「力を分解」を押すと、おもりにはたらく重力が糸の方向と接線方向に分かれます。振り子を戻しているのは、そのうちの接線方向の成分 \(mg\sin\theta\) です。「⏸ 一時停止」で止めると矢印をゆっくり見られ、「近似のずれ」を押すと、つりあいの位置からのずれ \(x\) が出ます。振れ角のスライダーを 5° から 45° まで動かしても往復の速さがほとんど変わらないことも、あわせて確かめてください。なお、おもりの重さを変えるつまみはありません。周期の式に \(m\) が入っていないので、変えても何も起きないからです。
天井から糸でつるした振り子があります。この糸の長さを 4 倍にのばしてみます。
1 往復にかかる時間を周期 \(T\)〔s〕といいます。糸を 4 倍にしたのだから、周期も 4 倍になるでしょうか。
いいえ、2 倍にしかなりません。長さ 1.0 m の振り子の周期はおよそ 2.0 秒で、これを 4.0 m にのばしても 4.0 秒です。
周期を与える式はこれです。$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{l}{g}} $$\(l\)〔m〕は糸の長さ、\(g\)〔m/s²〕は重力加速度です。
\(l\) はルートの中に入っています。だから長さを 4 倍にしても、周期は \(\sqrt{4} = 2\) 倍にしかならないのです。
しかもこの式には、おもりの質量 \(m\) も振れ角 \(\theta\) も入っていません。周期を決めているのは糸の長さだけです。
使う考え方:単振り子・単振動・力学・周期・等時性
ここからが本題です。周期の式にルートが出てくる理由を、2 段階でたどります。まず振り子を戻している力を求めます。おもりにはたらく重力を糸の方向と接線方向に分け、接線方向の成分だけが振り子を戻していることを確かめます。すると、振れ角が小さいときにかぎって、この力がばねの復元力と同じ形になります。次に、そこから読み取ったばね定数をばね振り子の周期の式に代入します。このとき質量が約分で消え、糸の長さと重力加速度だけの式が残ります。
では、なぜ周期の式にルートが出てくるのでしょうか。振り子をばねに読みかえると見えてきます。
おもりにはたらく力は、糸が引く張力 \(S\) と重力 \(mg\) の 2 つです。張力は糸に沿って支点を向いているので、おもりが進む向きには力を出しません。そこで重力を糸の方向と接線方向に分けると、振り子を戻しているのは接線方向の成分\(mg\sin\theta\) だけだとわかります。
つりあいの位置からのずれを \(x\)〔m〕とします。振れ角 \(\theta\)〔rad〕が小さければ、\(x\) は弧の長さ \(l\theta\) とみなせます。さらに、角が小さいときは \(\sin\theta \fallingdotseq \theta\) が使えるので、戻す力はこう書けます。
$$ F = -mg\sin\theta \fallingdotseq -mg\theta = -\frac{mg}{l}\,x $$
マイナスは、力の向きがずれと逆、つまりつねにつりあいの位置へ戻る向きであることを表します。なお \(\sin\theta\) を \(\theta\) で置きかえたことによるずれは、振れ角 20° で約 2 %、45° でも約 10 % です。「振れ角によらない」というのは、正確にはこの近似が効く小さい角にかぎった話です。
ばねの復元力は \(F = -kx\) でした。いま得た \(F = -\dfrac{mg}{l}x\) は、これとまったく同じ形をしています。つまり単振り子は、ばね定数が \(\dfrac{mg}{l}\) のばねとみなせるのです。
$$ k = \dfrac{mg}{l} $$
ここからは、ばね振り子の周期の式をそのまま借ります。そこへ、いま求めた \(k\) を入れます。
ばね振り子の周期は、おもりの質量 \(m\)〔kg〕とばね定数 \(k\)〔N/m〕を使ってこう書けました。
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$
この \(k\) に \(\dfrac{mg}{l}\) を代入します。
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{\;mg/l\;}} = 2\pi\sqrt{\frac{ml}{mg}} $$
根号の中で、分母と分子の \(m\) が約分で消えます。
残るのは、糸の長さ \(l\) と重力加速度 \(g\) だけの式です。結論で先に見せた周期の式が、これで導けました。
途中で \(m\) が消えたので、周期はおもりの重さによりません。重いおもりほど重力に強く引かれますが、そのぶん動かしにくくもなるので、2 つの効果がちょうど打ち消し合うのです。
$$ T = 2\pi\sqrt{\dfrac{l}{g}} $$
まとめます。単振り子の周期を決めているのは、糸の長さ \(l\) だけです。おもりの重さも、振れ幅も効きません。
周期の式をもう一度書きます。
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{l}{g}} $$
\(l\) はルートの中にあるので、長さを 4 倍にすれば周期は 2 倍、9 倍にすれば 3 倍になります。実際に 0.40 m と 1.60 m の振り子を比べると、1 往復におよそ 1.3 秒と 2.5 秒かかり、ちょうど 2 倍です。
いっぽう、おもりの重さは導く途中で約分されて消えました。振れ角も、小さいうちは \(\sin\theta \fallingdotseq \theta\) の近似が効くので、周期をほとんど変えません。
振れ幅が変わっても周期が変わらないこの性質を等時性といいます。振り子時計は、ぜんまいがゆるんで振れ幅が小さくなっても時を刻む速さが変わりません。等時性こそが、振り子時計を正確にしているのです。