ばねを付けた台車が別の台車にぶつかるとき、「ばねがいちばん縮んだ瞬間」を聞かれて手が止まったことはないでしょうか。いちばん縮むのだから、そこでは 2 台とも止まっているはずだ——と考えたくなります。ですがその考えでは、はじめに持っていた運動量が消えてしまいます。このページでは、最大の縮みがどんな瞬間なのかをはっきりさせてから、運動量保存とエネルギー保存の 2 本だけで縮みを出すまでを順に追います。
下の図は、なめらかな床の上を走る台車 \(\mathrm{A}\)(\(3.0\ \text{kg}\))が、前に付けたばね(ばね定数 \(300\ \text{N/m}\))で、静止した台車 \(\mathrm{B}\)(\(1.0\ \text{kg}\))を押すようすです。床の摩擦とばねの質量は考えません。上の行に出ているのは、与えられている質量とばね定数です。「最大の縮みで止める」を押すと、いちばん縮んだ瞬間で止まり、縮み \(x\) のものさしが出ます。止めたまま「重心を見る」を押すと重心の印と紫の矢印が出て、もう一度押して消すと、こんどは \(\mathrm{A}\) と \(\mathrm{B}\) の速度の赤い矢印が 2 本そろって出ます。2 本の長さが同じで、どちらも 0 ではないこと——これが「2 台とも止まっていない」の中身です。「エネルギー」を押すと、下に運動量とエネルギーの棒が出ます。ぶつかっているあいだも運動量の棒は少しも減らず、エネルギーの棒だけが運動のぶんとばねのぶんに分かれます。もう一度「重心を見る」を押してから「⟲ 最初から」「▶ 再生」で通すと、画面が重心を追いかけるので、重心の印はその場から動かず、2 台がその左右で動きます。紫の矢印の長さはぶつかる前も最中も後もまったく変わりません——これが「重心は等速で進む」ということです。
なめらかな床の上を、前にばねを付けた質量 \(3.0\ \text{kg}\) の台車 \(\mathrm{A}\) が、\(4.0\ \text{m/s}\) で走ってきます。その先には、静止した質量 \(1.0\ \text{kg}\) の台車 \(\mathrm{B}\) が置いてあります。ばね定数は \(300\ \text{N/m}\) です。
ばねが縮み始め、やがていちばん縮んだ瞬間が来ます。このとき 2 台とも止まっているでしょうか。
答えは「いいえ」です。2 台は止まっておらず、両方とも \(3.0\ \text{m/s}\) で一緒に動いています。
理由は運動量です。はじめの運動量は \(3.0 \times 4.0 = 12\ \text{kg}\cdot\text{m/s}\)。床がなめらかで水平方向に外から力を受けないので、この \(12\) は衝突のあいだも変わりません。2 台とも止まったら運動量が \(0\) になり、\(12\) が消えてしまいます。
動いたままということは、運動エネルギーもまだ残っているということです。はじめの運動エネルギーは \(\dfrac12 \times 3.0 \times 4.0^{2} = 24\ \text{J}\)。これが全部ばねへ行くことはなく、ばねに預けられるのはそのうちの \(6.0\ \text{J}\) だけです。
ばねにたくわえられるエネルギーは \(\dfrac12 k x^{2}\) なので、縮み \(x\) は次の式から決まります。$$ \frac12 \times 300 \times x^{2} = 6.0 $$これを解くと \(x = 0.20\ \text{m}\)。「2 台とも止まる」と考えて \(24\ \text{J}\) を全部入れたときの \(0.40\ \text{m}\) の、ちょうど半分です。
使う考え方:運動量保存・エネルギー保存・ばね・力学・2体問題
ここからが本題です。縮みを出す道すじは 2 段階あります。まずいつ最大になるかを決めます。近づいているあいだだけ縮むので、最大の瞬間は「近づく速さが \(0\)」、つまり 2 台の速度が等しい瞬間です。そこまで分かれば、その共通の速度は運動量保存で出せます。次にエネルギーを数えます。はじめの運動エネルギーのうち、共通の速度で動くぶんは運動エネルギーのまま残るので、残りがばねへ移ったぶんです。運動量保存だけでも、エネルギー保存だけでも足りず、2 本そろってはじめて縮みが出るところが山です。
まずは、なぜ 2 台が同じ速度になるのかを見ます。ここを納得しておかないと、あとの計算が公式の当てはめだけになってしまいます。
ばねの縮みが増えるのは、\(\mathrm{A}\) が \(\mathrm{B}\) に近づいているあいだだけです。逆に \(\mathrm{B}\) が \(\mathrm{A}\) から離れ始めれば、ばねは伸びて縮みは減っていきます。
増えるから減るへ切り替わる瞬間が、縮みの最大です。その瞬間は近づく速さ、つまり 2 台の相対速度が \(0\) になっています。相対速度が \(0\) とは、2 台の速度が等しいということです。
速度が等しいと分かれば、その値は運動量保存で出せます。共通の速度を \(V\) とおくと、左辺ははじめの運動量 \(3.0 \times 4.0\)、右辺は 2 台をまとめた質量 \(3.0 + 1.0 = 4.0\ \text{kg}\) が \(V\) で動く運動量です。
$$ 3.0 \times 4.0 = 4.0\,V $$
よって \(V = 3.0\ \text{m/s}\) と決まります。
$$ V = 3.0\ \text{m/s} $$
速度が決まったので、次はエネルギーです。床はなめらかで、ばねは縮んだぶんをそのまま押し返すので、運動エネルギーとばねのエネルギーの合計は変わりません。
はじめに動いているのは \(\mathrm{A}\) だけです。
$$ \frac12 \times 3.0 \times 4.0^{2} = 24\ \text{J} $$
この \(24\ \text{J}\) が、これから使えるエネルギーの全部です。
いちばん縮んだ瞬間は、\(4.0\ \text{kg}\) がまとめて \(3.0\ \text{m/s}\) で動いている状態でした。
$$ \frac12 \times 4.0 \times 3.0^{2} = 18\ \text{J} $$
つまり \(18\ \text{J}\) は運動エネルギーのまま残ります。
ばねへ移れたのは、その差だけです。
$$ 24 - 18 = 6.0\ \text{J} $$
縮みを \(x\) とすると、ばねのエネルギーは \(\dfrac12 \times 300 \times x^{2} = 150\,x^{2}\) なので、
$$ 150\,x^{2} = 6.0 $$
両辺を \(150\) で割ると \(x^{2} = 0.040\)、よって \(x = 0.20\ \text{m}\) です。2 台が止まると考えたときの \(0.40\ \text{m}\) の半分で、ずれの原因は「残った \(18\ \text{J}\)」を数え落としたことにあります。
$$ x = 0.20\ \text{m} $$
この問題の急所は 1 つで、ばねが最も縮むのは相対速度が \(0\) になる瞬間だ、ということです。2 台がそろって止まる瞬間ではありません。
そのとき 2 台は止まっておらず、重心の速度で一緒に動いています。水平方向に外から力を受けていないので、重心は衝突の前も最中も後も \(3.0\ \text{m/s}\) のまま進み続けます。
重心が動いているぶんの運動エネルギーは、どうやってもばねへ渡せません。
$$ \frac12 \times 4.0 \times 3.0^{2} = 18\ \text{J} $$
さきほど「運動エネルギーのまま残る」と数えた \(18\ \text{J}\) の正体が、この重心の運動です。
だからばねに入るのは、はじめのエネルギーの一部だけになります。この問題では \(24\ \text{J}\) のうち \(6.0\ \text{J}\)、割合にすると \(\dfrac14\) です。静止した相手にぶつかるとき、この割合は \(\dfrac{m_{\mathrm{B}}}{m_{\mathrm{A}} + m_{\mathrm{B}}}\) になり、相手が軽いほど、ばねへ渡せるぶんは小さくなります。